企業の脱炭素戦略は「理想」から「現実」へ(Ⅷ)

はじめに

 燃料業界におけるカーボンニュートラルは、様々な産業分野の動向を踏まえ、生産量や製造コストの面から現実解となり得る「グリーン燃料」の方向性を模索している段階にある。
 一方で、収益拡大を求める株主からの圧力や根強い化石燃料需要を受け、国内外の大手燃料メーカーは、低炭素分野への急激な投資から化石燃料事業の収益確保に向けた現実路線への回帰を表明している。  

燃料業界におけるグリーン化の方向の見直し

 燃料業界におけるカーボンニュートラルは、様々な産業分野の動向を踏まえ、生産量や製造コストの面から現実解となり得る「グリーン燃料」の方向性を模索している状況である。

 例えば、自動車業界では電化一辺倒から、バイオディーゼル、バイオエタノール、合成燃料(e-fuel)、水素などの多様な次世代燃料の活用「マルチパスウェイ」向かう方向が見え始めている。すなわち、世界的にはEVが急拡大しているが、一部の国・地域でバイオ系燃料が使われ、合成燃料の開発も進められている。

 航空機業界では電動ハイブリッド航空機や水素燃焼航空機の開発の遅れもあり、バイオ系SAF、アルコール系SAF、ガス系SAFの開発が進められている。現在、廃食油を原料としたバイオ系SAFが先行しているが、原料不足のため将来的には合成燃料(e-fuel)への指向が強まっている。

 船舶業界では小型船を対象に電動船や燃料電池船の開発が進められている。大型船は液化天然ガス(LNG)、バイオLNG、グリーンメタノール、グリーンアンモニアを使うデュアル燃料船が建造されおり、現在、大手船社マースクの推す「グリーンメタノール Maersk」が中心となる可能性が高まっている。

 鉄道業界では”電化”を最終的な脱炭素手段と位置付けている。電化区間の拡大とグリーン電力の自前調達を進め、非電化区間ではハイブリッド車両や蓄電池車両などが進められている。一方、北米など電化が困難な国・地域では、既存のディーゼル車両を活用できるバイオ・ディーゼル燃料への移行をめざしている。

 重機・建機業界では電化区域での小型機(都市部・屋内)は電動化、非電化区域の中大型機(地方・インフラ工事)は内燃機関のハイブリッド化から代替燃料への移行をめざし、将来的には燃料電池・水素エンジンでネットゼロをめざすなど、機体サイズに適した”マルチパスウェイ”が指向されている。

 鉄鋼業界では水素直接還元の急速な導入の敗因から、当面は石炭高炉の延命による投資回収で新興国の需要への対応を進める。高炉への水素・天然ガス注入とスクラップ活用による電炉操業で脱炭素をめざし、将来の水素直接還元への移行に備えている。

 火力発電業界では、現時点で、石炭にアンモニア、天然ガス(LNG)に水素を混ぜる混焼によりCO2排出を減らす検討や、排出されるCO2を回収して地中に貯留(CCS)・有効利用(CCUS)する技術の実用化が進められている。また、最終解と目されている水素・アンモニア専焼によるゼロエミッションの実証も行われている。 

表2  将来に向けた自動車・航空機・船舶・発電用燃料のグリーン化指向

 以上のように様々な業界で次世代燃料として「グリーン燃料」の開発が進められており、①バイオ系燃料(バイオマス・バイオガス・バイオ燃料)、②合成燃料(e-fuel)、③水素系燃料(H₂・アンモニア)に分類できる。

 一方で、収益拡大を求める株主からの圧力や根強い化石燃料需要を受け、国内外の大手燃料メーカーは、低炭素分野への急激な投資から化石燃料事業の収益確保に向けた現実路線への回帰を表明している。
 すなわと、欧米メジャー(BP、Shell、TotalEnergies、ExxonMobil、Chevron)は化石燃料への回帰を強め、再エネ投資の選択と集中を進めている。国内でも出光興産、ENEOS、出光興産、三菱商事などが再エネ・水素・アンモニアの“拡大路線”から“現実路線”へと移行している。

 2025年2月、英国石油大手BPは、利益の改善や投資家の信頼向上を狙い経営戦略を大幅に見直し、再エネへの投資計画を約50億ドル圧縮して15~20億ドル/年とし、石油・天然ガス投資を100億ドル/年へと引き上げた。世界的な再エネ移行への遅れが原因で、化石燃料への需要が高いと判断した。
 また、自社のみでなくサプライチェーン上で排出されるGHG削減についても、2019~2030年にかけて20~30%削減する目標を撤回し、炭素集約度(CO₂排出量/売上高)を最大10%削減に改訂した。

 2025年9月、出光興産は約9割を占めている化石燃料事業の収益比率を「2030年度に5割以下に下げる」としていた経営目標を大幅に見直した。当面、化石燃料需要は高く、8割程度に下げる修正を検討している。
 2022年に策定した2023~2025年度の経営計画では、GHG排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルの達成を掲げ、2023~2030年度に8000億円の投資を計画。目標の見直しに伴い、一部を化石燃料事業の投資に振り替える。

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