航空機ジェットエンジン材料(Ⅵ)

航空機

 高バイパス比化と並ぶ燃費低減方法は、タービンの高圧力比化と高温化による熱効率向上である。しかし、従来のNi基超合金を使用する限り冷却は不可欠で、冷却空気量の増加で燃費低減効果が失われる。

 そこで、2016年に就航したエアバス「A320neo」に搭載された「LEAP-1A」エンジンには、セラミックス基複合材料(CMC:Ceramic Matrix Composites)が、民間航空機エンジンの高温静止部品に初適用された。

セラミック基複合材料(CMC)の開発 

 タービン・シュラウドに採用されたSiC/SiC複合材料(SiC密度:3.1g/cm3)は、従来のNi基超合金(Ni密度:8.9g/cm3)に比べて軽量で、耐熱温度は1300℃(米国では2400℉と記載)とされ、単結晶Ni基超合金(SC)と比べて約200℃高い。
 また、機械的性質では2倍の高温強度を有し、引張強度:250~325MPa、曲げ強度:400~550MPa、圧縮強度:1000~1300MPa、破断ひずみ:0.2~0.7%と公表されている。

CMCの製造技術

 セラミック基複合材料(CMC)は、炭化ケイ素長繊維強化炭化ケイ素基複合材料(SiC/SiC composite、以下ではSiC/SiC複合材料)が主流となり、2000年初期に基礎開発が終了した。 

 製造プロセスは、セラミックス繊維による織物構造(プリフォーム)を作る「製織工程」と、その後に織り上げたセラミックス繊維間にマトリックスを形成する「複合化工程」とで構成される。SiC/SiC複合材料の基本的な材料特性は、この複合化工程により大きな影響を受ける

 代表的な複合化工程として、前駆体含浸・焼成法(PIP:Precursor Impregnation and Pyrolysis)、化学気相浸透法(CVI:Chemical Vapor Infiltration)、反応焼結法(RS:Reactive Sintering)とプリプレグ/溶浸法(MI: Melt Infiltration)、熱間加圧焼結法(HP:Hot Pressing)などが開発されている。
 ただし、ファインセラミックスで主流の常圧焼結法は採用されていない。一般にSiCの常圧焼結法では焼成温度が2000℃を超えるため、現有のSiC繊維は損傷を受けてためである。

図13 各種成形プロセスによるSiC/SiC複合材料の断面組織のSEM観察結果

 CMCの製造プロセスは、未だ開発途上にあるといえる。今後、経済性も含めて部品形状に合わせた様々な方法が開発されるであろう。現在、第一世代のSiC/SiC複合材料として航空機ジェットエンジン用に実用化されているのは「プリプレグ/溶浸法(MI)」のみである。

前駆体含浸・焼成法(PIP)

 初期に開発されたPIP法はプリカーサー含浸・焼成法とも呼ばれ、前駆体ポリマーを加熱溶融あるいは溶剤に溶解して液相とし、含浸と焼結を複数回繰返すことでSiC繊維プリフォーム中にSiCマトリックスを形成する。原理的に緻密なマトリックスを得ることは困難で、気孔率が20~30%程度残留する。

 日本カーボンがニカロン繊維へCVD法により炭素をコーティングし、PIP法で製造した「ニカロセラム」などを商品化した。現在は、アート科学が製造を引き継ぎ、湿式法による安価なSiNBC系界面コートやβ-SiCナノ粒子などを利用した先進PIP法を開発し、SiC/SiC複合材料の供給を行っている。

化学気相浸透法(CVI)

 加熱したSiC繊維プリフォーム中に原料ガスの送給・吸引を繰り返し、繊維表面に化学気相反応によりBN界面コーティング、その後にSiCマトリックスを析出させる。マトリックスを効率よく析出させるためチャンバー内の原料ガス温度、ガス濃度、処理時間などの最適化が重要である。気孔率は10~15%程度は残留する。

 複雑形状部品への対応が可能で高品質のSiCマトリックスが形成できるため、IHIは航空機ジェットエンジン用のCMCタービン部品製造にCVI法を採用している。CVI後に残留した連続空孔を埋めるため、固相含浸(SPI:Solid Phase Infiltration)法や低融点(1325℃)のSi-10at%Y合金の高温真空含浸法などを検討している。

反応焼結法(RS)とプリプレグ/溶浸法(MI) 

 SiC繊維プリフォーム中にSiCとCの粉末を含むスラリーを含浸し、その後にSi(融点:1414℃)を溶融含浸し、C+Si→SiCの反応により短時間でSiCマトリックスを形成する。焼結収縮率が±1%以内と小さいため大型・複雑形状対応が容易で、PIP法やCVI法に比べて短時間で緻密なマトリックスが得られる

 東芝は、発電用ガスタービン高温部品へのCMC適用に向け反応焼結法(RS)を開発した。CVD法によりBN/SiCの2層界面コートを施工し、部品形状に繊維プリフォームを編み上げ、SiC+C粉末のスラリーを加圧含浸し、真空炉中1450℃でSi(Bを微量添加)を溶融含浸する。気孔率は2%以下を実現した。

 米国GEは、「LEAP」エンジン向けに「プリプレグ/溶浸法(MI)」を開発した。SiC繊維表面にCVD法で界面コートを施し、バインダー+SiC and/or Cからなるスラリー中を通して湿式ドラムで巻き取り、一方向繊維テープを製造する。その後、所定の形状に切断・積層し、500℃以下で脱脂処理して繊維プリフォームを作製する。この繊維プリフォームを真空炉中で1400~1450℃に加熱してSiを溶融含浸し、C+Si→SiCの反応により短時間で緻密質マトリックスを形成する。

 いずれのプロセスでも未反応のSiが残留するため、CMCの使用上限温度がSiの融点(1414℃)で規定される。実際に、第一世代のSiC/SiC複合材料の耐熱温度は、安全性を考慮して1300℃とされている。

熱間加圧焼結法(HP)

 SiC繊維とSiCマトリックスの原料粉末を一緒に加圧焼結(HP)する方法である。マトリックス原料として単一粉末原料を使用する場合や、複数原料を使用して反応焼結あるいは液相焼結により複合化を行う場合もある。緻密なマトリックスのCMCが製造できるが、大型・複雑形状部品の製造は困難である。

 平均粒径:15~30nmのSiC粉末に焼結助剤(Y2O3, Al2O3, SiO2)を添加したスラリーから、テープキャスティングで作製したグリーンシートと、炭素界面コートを施したSiC繊維周辺にSiCスラリーを塗布したプリプレグシートを積層し、ホットプレスで成形する。2020年9月に京都大学発ベンチャーのNITEが商品化した。

 また、宇部興産はチラノ繊維の製造過程品をHP法で成形して、2種類の繊維集合体セラミックスを開発している。SAチラノヘックス(繊維体積率:約 95%、気孔率:約 1%、密度:約 3.1g/cm3)と、チラノヘックス(繊維体積率:約 87%、気孔率:約 1%、密度:約 2.4g/cm3)で、2014年11月から超高温センターが製造・販売している。

化学液体蒸着法(CLVD)

 化学液体蒸着法(CLVD:Chemical Liquid Vapor Deposition)は膜沸騰化学気相浸透法(FBCVI:Film Boiling Chemical Vapor Infiltration)とも呼ばれており、1990年代からフランス・サクレー原子力庁センターの研究所で、緻密なSiCを合成する手法として開発が進められてきた。
 最近になりC/C複合材料、C/SiC複合材料、SiC/SiC複合材料を対象とし、CVI法に比べて短時間で緻密な界面コートとマトリックスを形成できるプロセスとして注目されている。繊維プリフォームを液体前駆体の溶液中に浸漬して加熱処理を行うプロセスである。

 IHIエアロスペースは、炭素繊維プリフォームを液体ポリシラン(LPS)に浸漬して1150~1200℃で6h、または6h×3回の処理を行うことでマトリックス形成し、その後にセラミックス化のためArガス雰囲気で1500℃、または1650℃の熱処理を施してC/SiC複合材料を作製している。SiC/SiC複合材料の開発にも着手している。 

耐環境コーティング技術

 SiC/SiC複合材料は、高温大気中で優れた耐酸化性を示す。”SiC+3/2O2(g)→SiO2+CO(g)”の反応式から、SiC表面には密着性に優れた緻密な保護性酸化皮膜(SiO2)が形成される。

 しかし、ガスタービンのような水蒸気(H2O(g))を多く含む燃焼ガス雰囲気では、”SiC+3H2O(g)→SiO2+3H2(g)+CO(g)” ⇒ ”SiO2+2H2O(g)→Si(OH)4(g)”の反応式により、SiO2のガス化で揮散が進み顕著な減肉が生じることが報告されている。

 SiC/SiC複合材料を航空機ジェットエンジンの高温部品に適用するためには、耐環境コーティング(EBC:Environmental Barrier Coating)が不可欠とされ様々な研究開発が行われた。
 プリプレグ/溶浸法(MI法)で製造されたSiC/SiC複合材料の熱膨張係数は4.0~5.0X10-6/℃である。この上に形成される耐環境コーティングの割れや剥離を回避するためには、金属基材上に形成されたセラミック遮熱コーティング以上に熱膨張係数のマッチングが重要となる。 

 1990年、米国航空宇宙局(NASA)のHSCT/EPM (High Speed Civilian Transport/Enabling Propulsion Materials)プログラムで、NASA、GE、UTRCにより「BSAS/Mullite+BSAS/Si」のEBCが開発され、第一世代の耐環境コーティングである。
 使用上限温度は、BSASとTGO層に形成されるSiO2との共晶点(1310℃)により規定されるため、1300℃級EBCと位置付けられている。民間航空機エンジン「LEAP」のタービン高温部品であるシュラウド(表面温度:1200℃)に採用されている。

 トップコートの高温水蒸気腐食に優れたBSAS(1-xBaO・SrO・Al2O3・2SiO2、0≦x≦1)と熱応力緩和を目的としたムライト(3Al2O3・2SiO2)とBSASの混合組織は大気プラズマ溶射、酸素拡散防止層と密着性向上層としてSiボンドコートが減圧プラズマ溶射による成膜された。

図14 米国GEが開発した航空機エンジン用シュラウドの耐環境コーティングの断面組織

 一方、近年では火山灰や砂塵による航空機ジェットエンジンの損傷で注目を集めている「カルシウム・マグネシウム・アルミノシリケート(CMAS:Calcium Magnesium Alumino-Silicate)損傷」が、EBCを施したSiC/SiC複合材料部品においても解決すべき課題として重要視されている。
 1300℃級EBCの場合、約1200℃以上で溶融したCMASとBSAS界面ではBa、Sr元素が拡散反応し、エンジン停止による冷却過程でEBCが損傷を受けて減肉する。 

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