最近の航空機事情と材料(Ⅱ)

航空機

 米国ボーイングの中型ワイドボディ機「B787」では機体材料に占めるアルミニウム合金の重量比が20%に減少し、複合材料(CFRP、GFRPなど)の重量比が50%に高められた。欧州エアバスの中型ワイドボディ機「A350XWB」ではアルミニウム合金の重量比が21%に減少され、CFRPの重量比53%に高められた。
 一方、「B777X」ではCFRP適用は主翼のみで、胴体はアルミ合金とチタン合金と鋼で構成されている。

代表的な航空機の機体材料の進化

ボーイングの「B787」

 航空機用アルミニウム合金(比重:2.6~2.8)の開発は、1906年のAl-Cu系合金であるジュラルミン(2017材)に始まり、1928年のAl-Cu-Mg系合金の超ジュラルミン(A2024材)開発、1936年のAl-Zn-Mg-Cu系合金の超々ジュラルミン(A7075材)開発と、高強度と高靭性の両立をめざして進められた。

 1954年にはボーイングの「B707」にA7075-T651材とA7178-T651材が、1979年には「B767」にA7075材とA2324-T39材とA7150ーT651が、1994年には「B777」にA7055ーT7751材とA2524ーT3」材が採用され、アルミニウム合金は機体材料の70~80%を占めていた。

 2011年11月、ANAにより初運行された「B787(Boeing 787 Dreamliner)」では、アルミニウム合金は機体材料の重量比で20%に減少し、複合材料(CFRP、GFRP)が50%にまで高められた。 
 チタン合金は機体材料の15%を占め、主要部品の主脚(ランディングギア)にTi-5Al-5Mo-5V-3Cr合金が用いられ、その他5%の中には、新たにAl-Li系合金(A2098-T8材)の板材が適用。日本企業が機体部品の35%の製造を担い、主翼は三菱重工業、前胴体部は川崎重工業、中央翼はSUBARUが製造する。

 この長距離用中型ワイドボディ機である「B787」(全幅:60m、全長:57m、全高:17m)には、英国ロールスロイスの「Trent1000」あるいは米国GEエアロスペースの「GEnx」エンジンが搭載されている。

図1 ボーイングの「B787」で採用された構造材料の構成
出典:炭素繊維協会

 2025年11月、ボーイングは米南部サウスカロライナ州の工場で拡張工事を始めた。「B787」の工場で新たに10億ドル(約1500億円)超を投じ、工場を拡張し需要に応える。ボーイングによると、B787の受注残は約1000機に及び、今年だけで300機の受注があった。
 2025年6月、インド西部で 「B787」は初の墜落事故が起きており、事故原因の調査は続いている。

ボーイングの「B777X」

 一方、エンジン開発の遅れ、試験中のトラブル、新型コロナ禍による生産体制の見直しなどにより、開発中の大型ジェット旅客機「B777X」の商業運航は、2027年初頭にずれ込むと報じられている。市場ではエアバスの「A350 XWB」と競合する機種である。

 機体材料へのCFRP適用は主翼のみと減少し、胴体はアルミ合金とチタン合金と鋼で構成されている。CFRP製の主翼には折りたたみ式のウィングチップが採用され、駐機時は折りたたみ(翼幅:64.82m)、飛行時には長くなるよう展開(翼幅:71.75m)し、大きな揚力を発生させ燃費効率を最大化する。

 また、アルミニウム合金には、銀(Ag)が添加された2029-T8 クラッド材、Al-Li 系合金(2098-T84) 板材、2055-T84 押出材などが適用されている。

 この「B777X」は、「B777-8」(全長:69.79m)と「B777-9」(全長:76.72m)の派生型があり、搭載するエンジンは米国GEエアロスペースの「GE9X」のみが選択されている。「GE9X」には、最新のセラミックス基複合材料部品が採用されている。

 2025年11月、ボーイングは、2025年11月17日~11月21日まで開催される「ドバイ航空ショー」で「B777X」を飛行展示すると発表。実際に飛行を行い、飛行性能をアピールする。また民間航空機では、このほかにも777-300ER、737 MAX、737 BBJ、737 BCFなどを展示する計画としている。

図2 開発中の「B777X」  出典:ボーイング

エアバスの「A380」

 欧州エアバスでも、複合材料(CFRP、GFRP)の機体材料への重量比率は増加する傾向にある。
 1988年4月に運用を開始した単通路の双発機の「A320」では複合材料は重量比で15%であったが、4基のターボファンエンジンを装備した超大型ワイドボディ機の「A380」では 22%に増加し、最新のワイドボディ機「A350XWB(Airbus A350 eXtra Wide Body)」では53%に達している。

 2007年10月、シンガポール航空により初運行された「A380-800」(全長:72.7 m、全幅:79.8 m、全高:24.1 m、標準客席数:525席)には、米国エンジン・アライアンス の「GP7200」、もしくは英国ロールス・ロイスの「Trent900」エンジンが搭載されている。

 1次構造部材(中央翼、水平・垂直尾翼など)へのCFRP適用が30トンを超え、重量比で22%に達する。
 一方、重量比で61%のアルミニウム合金は、主翼桁材にA7040-T7651材、リブ材にA7449-T7651材、主翼下面ストリンガにZr添加A2027-T3511材、主翼上面外板材にA7056-T7951材が使用された。

 その他、Al-Li系合金はメインデッキ、クロスビーム、床、ストリンガにA2099-T83、A2196-T8511押出材、主翼の桁やリブなどの内部構造にA2050-T84厚板が採用された。

  しかし、2019年2月、販売不振により「A380」機は、2021年以降の生産打ち切りが発表された。

エアバスの「A350XWB」

 ワイドボディ中型双発機の「A350」には、「A350-900(A359)」と「A350-1000(A35K)」の派生型がある。標準モデルのA350-900は約300~350席を有し、長胴型のA350-1000は約350~410席を有している。
 全複合材料製の主翼が特徴で、主翼面積は従来「A350」の361m²から「XWB」では443m²に拡張され、軽量化と共に燃費改善を実現している。

 2015年1月にカタール航空により初運用されたワイドボディ中型双発機の「A350XWB」(全長:66.8m(350XWB-900)、73.79m(350XWB-1000)、全幅:64.75m、全高:17.5(350XWB-900)、17.8m(350XWB-1000))には、英国ロールス・ロイス製の「Trent XWB」エンジンが搭載されている。

 重量比で53%に達するCFRPは、主翼、中央翼とキールビーム、テールコーン、スキンパネル、フレーム、ストリンガー、ダブラーなどや、胴体構造にも採用されている。
 重量比で21%を占めるアルミニウム合金は、バードストライク対策のため衝撃に弱いCFRP に代わり、コックピット周辺や主翼の前縁などに用いられている。Al-Li 系合金は、A2198-T851 板材の成形品、主翼ボックスのリブなどにA2050-T84 厚板、中央ビームにA2050-T852 鍛造材が使用されている。
重量比で14%のチタン合金は、高荷重フレーム、ドア周辺、ランディングギア、パイロに用いられている。 

図2 エアバス「A350XWB」で使用された構造材料
出典: Science China Technological Sciences
60-9,(2017)、1301-1317.

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