限界が見えてきた耐熱超合金に替えて、セラミックス基複合材料(CMC)の適用が航空機エンジンメーカーを中心に進められ、耐環境コーティングと共に、今後の重要な開発課題と位置付けられている。
航空機ジェットエンジンへのCMC適用で、世界の先頭を走るのは米国GE(現GEエアロスペース)である。一方で、米国のP&W、英国のRRは共にCMCメーカーを買収するなどして、キャッチアップを加速している。
航空機ジェットエンジン・メーカーの動向
米国GE Aerospace(GEエアロスペース)の開発動向
米国GEエアロスペースは、航空機ジェットエンジンへのCMC適用で世界の先頭を走る。
1974年、米国GEとフランスSNECMA(サフラングループ)は合弁会社CFMインターナショナルを設立し、小型機用航空機ジェットエンジン「LEAP」の共同開発を開始した。表面温度が1200℃に曝される高圧タービン・シュラウドに、「MI-SiC/SiC複合材料」を搭載して軽量化を進めるのが狙いである。
2012年4月、日本カーボン、GE、サフランの合弁会社NGSアドバンストファイバーが、富山県でCMC原料であるSiC繊維の製造を開始した。2019年4月から日本カーボンが製造ライセンスを供与し、GEがアラバマ州ハンツビルでSiC繊維工場を稼働させた。
2014年、CMCジェットエンジン部品の本格的製造工場をノースカロライナ州アッシュビルに建設した。同年11月には、GEとイタリアTurbocoatingは、耐環境コーティング(EBC)を施工するための合弁会社「Advanced Ceramic Coatings」をサウスカロライナ州ダンカンに設立した。
2014年初め、「LEAPエンジン」向けのCMC製高圧タービン2段目の非冷却シュラウドの生産を、SNECMA(LEAP1Aエンジン)とGE(LEAP1Bエンジン)で開始し、2016年にはエアバス「A320neo」、2017年にはボーイング「B737 MAX」、中国商用飛機有限責任公司(COMAC)「C919」に搭載された。
LEAP エンジンには 18個/台に分割されたリング状のCMCシュラウドが装着されており、2021年8月にはアッシュビルで10万台目のCMCシュラウドの出荷を公表している。

GEは最新型航空機エンジン「GE9X」の5種類の高温部品(高圧タービン第一段シュラウドと静翼、高圧タービン第二段静翼、燃焼器の内・外面ライナー)へのCMC採用を公表。GE9Xは現行モデルのGE90に比べて燃費が10%高く、2020年にFAA認証を取得し、次世代旅客機のボーイング「B777X」に搭載される。
さらに、米国空軍の「アダプティブ(適応型)エンジン移行プログラム(AETP:Adaptive Engine Transition Program)」の下で「XA100」エンジン開発にも取り組み、低圧タービンブレードへのCMC採用を検討している。

2022年7月、GEは3分社計画を発表した。ヘルスケア事業のGE HealthCare Technologies(ヘルスケア・テクノロジーズ)は、2023年1月に分社化を完了。2024年4月に航空宇宙事業にフォーカスするGE Aerospace(GEエアロスペース)は、エネルギー事業のGE Vernova(GEベルノバ)の分社化を完了した。
プラットアンドホイットニー(P&W)の開発動向
2019年11月に、米国ユナイテッドテクノロジー(UTC:United Technologies)の航空機エンジン部門であるプラットアンドホイットニー(P&W:Pratt & Whitney)は、カリフォルニア州カールスバッドにCMCのエンジニアリング&研究開発施設を開設すると発表した。
2020年4月、UTCの航空宇宙事業はレイセオンと経営統合し、レイセオン・テクノロジーズに社名変更された。エアバス「A320neo」向けの2機種のエンジンには、CFMインターナショナル「LEAP1A」とP&W「PW1100G-JM」が採用されたが、CMC製高温部品の適用は補修の難しさと経済性から断念した。
「PW1100G-JM」には、30年かけて開発してきたギヤードターボファンエンジン(GTF)が採用され、遊星ギアによりタービンとファンが最も効率よく作動できる機構を備え、高い燃費効率と環境性を実現している。
一方、CMCとEBCの開発は親会社UTCがNASAプロジェクトで進め、世界最大の航空宇宙•防衛製品サプライヤーであるUTCエアロスペースシステムズ(UTCAS:UTC aerospace systems)を傘下に置いている。
UTCASは、2012年にUTC子会社の航空宇宙システム設計・製造のハミルトンサンドストランド(Hamilton Sundstrand)と、新たに買収した「MI-SiC/SiC複合材料」の製造で実績のある米国グッドリッチ(Goodrich Corporation)が合併して設立された。
2021年7月に、次世代のPurePower®Geared TurboFan(GTF)エンジンへのCMC適用を公表した。同年10月、NASAの「Hybrid Thermally Efficient Core(HyTEC)プロジェクト」で、次世代の単通路航空機の燃料消費と排出ガスを削減する高度な高圧タービン技術の開発を推進する。
「HyTEC」がめざす技術には、現在のCMCよりも高い温度で動作できる次世代CMC材料、耐環境コーティング、新しいコンポーネント設計と効率を可能にする高度な冷却および空力アプローチが含まれる。
2024年4月、東京工科大学セラミックス複合材料研究センター(TUT)は、プラット・アンド・ホイットニー(P&W)と、SiC/SiC複合材料の共同研究を開始した。P&Wが資金を提供し、SiC/SiC複合材料の各温度での基本特性を調べ、得られた特性について理論的な研究が行われる。
ロールスロイス(RR)の開発動向
2012年、RRは1300℃級のSiC/SiC複合材料製の高圧タービン動翼の設計・製造・試験を終了し、2013年には英国の環境適合性エンジン(EFE:Environmental Friendly Engine) プログラムの一環で、繰返し耐久性検証試験を実施し、2016年末から地上試験を開始している。
最終版の「アドバンス3」では、「トレントXWB」のファンと「トレント1000」の6段の低圧タービンを使い、新設計の高圧(HP)コンプレッサー・タービンを組み込み、希薄燃焼(Lean-burn)の燃焼室と1段高圧タービンのアウターシールにSiC/SiC複合材料を採用し、健全性を確認した。
並行して、2013年5月、ロールスロイス(RR:Rolls-Royce Limited)は、「CVI-SiC/SiC複合材料」を製造する米国ハイパーサーム(Hyper-Therm High Temperature Composites)を買収して「Rolls-Royce HT」とした。
2016年11月、CMC研究開発に特化した「Rolls-Royce HT」の新工場を、カリフォルニア州サイプレスに開設した。元々は極太のSCS-Ultra繊維(繊維径:142μm、引張強度:5900MPa、弾性率:415MPa)でCVI-SiC/SiC複合材料を製造していたが、現在は繊維径:10~15μmのSiC繊維を使う開発に移行した。
2021年から飛行試験を予定している希薄燃焼/低エミッション燃焼の「ウルトラファン」エンジンには、「アドバンス3」の高圧(HP)系コアが使われている。
すなわち、1段高圧タービン・アウターシールと静翼には耐CMAS性に優れたEBCが施されたSiC/SiC複合材料が採用された。動翼や燃焼器への適用は、CMC技術の成熟に伴い採用を検討するとしている。
一方、米国ボーイングはCLEEN(Continuous Lower Energy, Emissions and Noise)開発計画を進めており、ボーイング技術研究所が開発した酸化物系CMCの排気ノズル部品を、RRのTrent1000エンジンに搭載し、NASAステニス宇宙センター内のRR屋外試験設備で73hの燃焼試験を終了した。
その後、酸化物系CMCの排気ノズル部品はボーイング787-8ドリームライナーに取付けられ、2014年後半からの飛行試験で耐久性55000hを達成している。

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