次世代燃料として「グリーン燃料」の開発が進められており、①バイオ系燃料(バイオマス・バイオガス・バイオ燃料)、②合成燃料(e-fuel)、③水素系燃料(H₂・アンモニア)に分類できる。
世界の合成燃料メーカーの潮流は、“実証段階”から“商業化段階”に移行している。欧米で“商業規模のPtL(Power‑to‑Liquid)プラント”が立ち上がり、イネラテック・欧州エナジー・HIF グローバル「HIF Matagorda)・インフィニウムは、いずれも 数千〜数万トン/年規模の商業プラントを建設・稼働させている。
合成燃料(e-fuel)
バイオ原料不足から長期的には合成燃料(e-fuel)が基本となるとの共通認識から、世界の合成燃料事業には大規模な実用化やプラント開発をリードする大手メーカーを中心に複数のスタートアップが参入している。一方、日本国内での合成燃料メーカーはいずれも実証段階に留まっている。
『世界の合成燃料メーカー』
■シェル(Shell、英国):「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロ」の目標を掲げ、低炭素エネルギーソリューションの一環として水素、バイオ燃料、CCSなどに大規模投資を進めている。
業界全体でフィッシャー・トロプシュ(FT)プロセスなどの革新的な生産技術やGTL(Gas-to-Liquids)技術の開発が注目されており、シェルもその知見を活かした低炭素燃料・化学品シフトを模索している。
■イネラテック(Ineratec、ドイツ):フランクフルトに欧州最大規模となる商用プラント「ERA ONE」を設置、最大2500トン/年のe-SAF、e-ディーゼル、e-ナフサの生産体制を構築。2030年までに生産量を数倍に拡大する計画で、航空燃料規制「ReFuelEU Aviation」などの需要に対応する。
■インフィニウム(Infinium、米国):回収CO2とグリーン水素からe-fuelを製造する技術を持つスタートアップで、テキサス州などでの大規模な合成燃料生産施設の稼働と投資が注目されている。2026年8月、アメリカン航空とe-SAFを使用した世界初の商業旅客便でのフライトを成功させた。
プラスチック原料の代替となるe-ナフサやe-ディーゼル、e-SAFの同時生産を進め、三菱商事(2025年1月)や三井物産(2025年4月)も出資。三菱商事とは自動車部品向けCO2由来樹脂の商用化を進める。
■ネステ(Neste、フィンランド):フィンランド国立技術研究センターと関連15社によるe-fuel研究プロジェクトで、 固体酸化物型水電解(SOEC)・CO2回収・フィッシャー・トロプシュ(FT)合成技術を統合して炭化水素を合成し、ポルヴォー製油所で精製したe-ディーゼルで2023年末にトラクターの走行実証を行った。
将来のバイオ原料不足を見据え、e-fuelの製造用にポルヴォー製油所に120MW規模の大型水電解装置の建設を計画したが、2024年10月に市況の悪化から投資の見直しを発表した。
■欧州エナジー(European Energy、デンマーク):太陽光発電と水電解による世界初の大規模商業用e-メタノール生産プラントを稼働。最大約4.2万トン/年の生産能力を有する。化石燃料由来の製品と比較してカーボンフットプリントを最大97%削減する。
■BP(英国):e-メタン等のメガスケール生産プラントを計画したが、政府支援の限界から大規模な新規投資を抑制し、より収益性の高い事業へと選別を進める。
■トタルエナジーズ(TotalEnergies、フランス)と米国TES(Tree Energy Solutions)が主導して、米国ネブラスカ州でグリーン水素とバイオマス由来CO2を活用したe-メタン(e-NG)の大規模生産計画を進めている。2027年の最終投資意思決定(FID)を経て、2030年頃の商業化と日本市場(大阪ガス、東邦ガス、伊藤忠商事が出資参画)への供給を計画中。
■HIFグローバル(HIF Global、チリ・米国):チリのマガジャネス州にある「Haru Oni(ハル・オニ)実証プラント」で、2022年12月に初めて合成燃料(e-fuel)の生産に成功。米国テキサス州「HIF Matagorda」などで、 7500万ℓ/年の合成ガソリンや17.36万トン/年の合成メタノールの商業プラントを計画中。
世界の合成燃料メーカーの潮流は、“実証段階”から“商業化段階”に移行している。欧米で“商業規模のPtL(Power‑to‑Liquid)プラント”が立ち上がり、イネラテック・欧州エナジー・HIF グローバル「HIF Matagorda)・インフィニウムは、いずれも 数千〜数万トン/年規模の商業プラントを建設・稼働させている。
また、イネラテック・インフィニウム・ネステは航空機向けのe-SAF、欧州エナジーは船舶向けのe-メタノール、インフィニウムは化学分野向けプラスチック原料の代替となるe-ナフサ、トタルエナジーズ+TESは都市ガス向けe-メタンなど、合成燃料メーカーの分野別対応が明確となってきた。
合成燃料メーカー各社の技術競争は激化しており、技術的には①原料となるCO2の回収、②原料となるH2の製造、③合成技術に採用する方式に特徴が見られる。②原料となるH2の製造は次の章で示す。
①HIFとインフィニウムは直接空気回収技術(DAC)を採用、②ネステは固体酸化物型水蒸気電解(SOEC)、シェルとトタルエナジーズはPEM型水電解、③イネラテックとHIFは高度化フィッシャー・トロプシュ(FT)プロセス。特に、SOECは効率が高く、e‑fuelのコストを下げる有力技術として注目されている。
『日本の燃料メーカーの合成燃料対応』
■ENEOS:2024年9月、横浜市の中央技術研究所内で合成燃料の一貫製造実証プラントを稼働、2040年度を目処に約159万ℓ/日規模の商用プラントに拡大する。2026年7月、ドイツのGerman eFuel One(GEF1)から合成ガソリンを初輸入すると発表。
■出光興産:2035年までに国内外の拠点で50万トン/年(約6.3億ℓ/年)規模のe-メタノール供給体制をめざし、北海道製油所(苫小牧市)などを軸に実用化検討を進める。
2026年3月、農薬大手のUPL(インド)と、合成燃料やバイオ系燃料の調達と関連事業の開発に向け共同検討を開始。2026年5月、水とCO2からメタノールを生成する電解技術を持つ米国スタートアップ「ATOM-X(アトムエックス)」や、電力供給で核融合発電スタートアップのテア・エナジー(Thea Energy)に出資。
■コスモ石油:合成燃料や次世代燃料の低コスト化をめざし、製油所から排出されるCO2を削減しながらメタノールやエタノールに変換するCCUS技術の検証を進めている。
2022年4月、GI基金事業で「CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」、2026年5月、京都大学等と共同でCO2を電力のみで直接蓄電池材料などに作り変える”溶融塩電解技術”の共同研究を開始した。
日本の石油3社(ENEOS・出光興産・コスモ)は、既存の製油所インフラを活かした合成燃料の研究開発段階にある。また、国内では再生可能エネルギーのコストが高いため、海外の大型プラントから安価な合成燃料を調達することも視野に入れており、国内での合成燃料の商用化はまだまだ先の話である。

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