最近の航空機事情と材料(Ⅰ)

航空機

 新型コロナ禍の影響から脱却して航空旅行が急回復する中で、航空機需要の順調な伸びが期待されている。一方、トランプ関税航空機の納入遅延で、一部地域で航空会社が急増する旅行需要に対応できず、世界経済の成長鈍化貿易摩擦による貨物輸送の落ち込みが危惧されている。
 特に、トランプ関税は航空旅費のコスト上昇につながり、一定規模での減速効果が予想されている。

最近の航空機事業動向と材料問題

 国際民間航空機関(ICAO)は2021年、航空各社がCO2排出を2019年より増やさないとのルールを導入した。現在は各国の自主的な対応となっているが、2027年には義務化する方針である。環境規制が強まれば、金属の代わりに軽量高強度のCFRP需要が増える。

 2022年3月、国際航空運送協会(IATA)は2024年の世界の航空旅客数が40億人と新型コロナの感染拡大前の2019年を3%上回ると予測した。
 すなわち、2021年の国内線・国際線を合計した旅客数は2019年比で47%に留まったが、2022年には83%に、2023年には94%にまで回復し、2024年には103%に、2025年には111%に増加する。

 今後も航空業界では難局が続くと考えられているが、2022年6月に入り、新型コロナ禍で低迷した航空機部材メーカーの生産回復が進められている。ウクライナ危機による燃料高騰や環境規制の強化により、航空機用軽量部材の需要は強まっている。

東レは、新型コロナ禍の影響で2020年夏に停止した米国サウスカロライナ州の炭素繊維の主力工場で、2022年内に航空機向けの出荷を再開する方針を示した。原糸製造からCFRP加工まで一貫生産を担う中核拠点で、ボーイング中型機「B787」の主翼や胴体などに使われる予定である。
帝人は、航空機向けの炭素繊維とCFRP部材の生産について、日本とドイツの工場で稼働率を高め、2022年3月期比で2023年3月期には2割増産、2024年3月期には4割増産計画を表明。
東邦亜鉛は、航空機の降着装置(ランディングギア)やエンジン部品の耐久性を高める電解鉄(世界シェア7割)の増産を表明。2023年3月期には生産を前期比2割増と新型コロナ感染拡大前の水準に戻す。2024年3月期には自動車向けの出荷を7割増産する。

 2022年8月、品質問題により停止していた「B787」の納入を、ボーイングが再開した。機体製造はボーイングのティア1として、三菱重工業、川崎重工業、SUBARUなどが分担している。日本企業の参画比率は合計で約35%と高い割合を占めている。

 2023年9月、米国P&W中心の国際共同開発エンジン「PW1100G-JM」で不具合が発生。P&Wの粉末冶金部品で不具合が発生し、同エンジン約3000台の追加検査が必要となり、搭載機は2024~2026年に平均350機の地上駐機が見込まれた。人気機種のエアバス製小型機「A320neo」に搭載される。
 三菱重工業、川崎重工業、IHIの3社は不具合に関与していなかったが、契約により参画シェアに応じて航空会社への補償費用を分担し、2024年3月期の業績は悪化した。

 2024年7月、国内の航空機産業がコロナ禍後の低迷から脱却しつつある。世界の航空需要回復により運航機数が増え、米国ボーイング、欧州エアバスの受注が戻ってきた。重工業大手3社はエンジン、機体の順に復調し、航空機事業の業績が回復している。
 ボーイングの小型機「B737MAX」向け、「B787」向けの受注が増えている。MRO(Maintenance:整備、Repair:修理、Overhaul:オーバーホール)事業も順調に伸びている。

 2025年2月、米国P&W、日本航空機エンジン協会(JAEC)、MTU Aero Engines(MTU)が設立したInternational Aero Engines(IAE)が主体で開発を進めてきたエアバスの「A320neo」ファミリー用エンジン「GTF Advantage」の型式承認が、米国連邦航空局(FAA)から交付され、運用が正式に認可された。 

 2025年6月、ボーイングは「2025年民間航空機市場予測」を発表今後20年間に旅客輸送量は年率4.2%で増加し、世界の民間航空機は需要は約2倍の4万9600機超に拡大する。
 新興市場の短距離旅行と格安航空会社向けに、単通路機は世界の航空機の72%を占める見込みで、2024年の66%から増加する。新興市場の長距離路線向けに、ワイドボディ旅客機は、2024年の約4400機から約8320機に増加する見込み。

 2025年6月、国際航空運送協会(IATA)は、2025年の航空会社の総利益予想を360億ドル(約5.1兆円)に下方修正した。昨年12月の予測は366億ドルであり、トランプ関税の影響を加味。それでも、原油価格の下落と好調な旅客数に支えられ、2024年の324億ドル(約4.6兆円)からは増加する。
 航空会社全体の売上高は、前回予想から2.1%下方修正し、9790億ドル(約140兆円)と見込み、前年比では1.3%増となり過去最高になると予想する。

 2025年8月、エアバスの単通路旅客機「A320シリーズ」は間もなく、米国のライバル機「B737」を抜いて史上最多の納入実績を持つ民間旅客機となると報道された。「A320ファミリー」の累計納入機数は12155機で、「B737」系との差はわずか20機で、史上最多の納入実績を持つ民間旅客機となる見通し。

 2025年11月、エアバスは、「A320」シリーズで飛行制御機能に不具合が起きる可能性があり、航空各社にソフトウエアの即時変更を要請。運航中のA320シリーズは約11300機で、半数の約6000機で対応が必要。強い太陽放射が飛行制御に不可欠なデータを破損させる可能性があるためとしている。
 2025年10月30日に、米格安航空会社ジェットブルー航空の機体で、操縦指示なしに機首が下がる事案が発生した。メキシコのカンクンから米国ニュージャージー州ニューアークに向かっていたジェットブルー航空機が、急激に高度を下げて複数の乗客が負傷した。1機あたりの修理時間は約2時間と限定的。

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