日本における原発回帰の動き(Ⅳ)

原子力

 2026年2月、経済産業省は第12回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループにおいて、「次世代革新炉開発ロードマップ(案)」を提示し、2040年以降の運転開始をめざすことを公表した。作成されたロードマップを見てみよう。 

「次世代革新炉開発ロードマップ(案)」とは! 

 2025年2月、第7次エネルギー基本計画が閣議決定される。第6次策定以降、ロシアによるウクライナ侵略中東情勢の緊迫化によるエネルギー安全保障上の要請が高まり、AI発展に伴うデータセンターや半導体工場設置による電力需要増加が見込まれ中で、2040年に向けた政策方針が示された。

 原子力発電比率の20%程度の実現に向け、①既設原発の最大限の活用(60年運転)、②廃炉が決定した原発を有する事業者の原発サイト内での次世代革新炉への建て替えと、次世代革新炉の実用化に向けた技術開発に継続的に取り組むことが盛り込まれた。

図1 原子力発電比率の20%を実現するための方策(①既設炉の最大限の活用と②次世代革新炉の開発・設置)

 2026年2月、経済産業省は、安全性や効率性を高めた新たな原子力発電「次世代革新炉」について、2040年以降の運転開始をめざすロードマップ案を公表する。電力会社やプラントメーカー、誘致をめざす自治体などに目安を示し、導入を後押しする狙いである。
 従来のロードマップは「設計・建設・運転時期」を簡略に示すのみであったが、具体的な「建設前準備段階」、「原子力規制許認可プロセス」、「研究開発」の状況を書き加えている。

■従来の原発がベースの「革新軽水炉」は、関西電力が美浜原発の建て替え導入に向けた現地調査を再開している。ロードマップでは、2030年までに民間による投資決定、2030年代半ばに詳細設計を完了、2040年以降の運転開始の目標を示した。
■中露や米国で導入準備が進む「小型モジュール炉(SMR)」も、2040年以降の運転開始を想定する。国内でSMR建設の動きは本格化していないが、データセンター向けなどの需要が見込まれる。
■プルトニウムを効率的に燃やせる「高速炉」は2040年代半ば、水素製造をめざす「高温ガス炉」は2040年以降に実証炉の稼働を見込む。夢の「核融合炉」は2030年代の発電実証をめざすとした。

革新軽水炉

■革新軽水炉とは: 既設の原発(PWR及びBWR)の設計をベースに、福島第一原発事故の教訓に基づいて様々な安全対策(電源・操作員なしで自動的に炉心冷却、重大事故発生時の周囲への影響抑制など)を設計段階から組み込まれただ軽水炉である。
■開発の現状: 国内原発メーカーが基本設計を実施し、三菱重工業「SZR-1200」日立GEベルノバニュークリアエナジー「HI-ABWR」東芝「iBR」を提案し、部品レベルでの実証試験を行っている。原子力規制庁との意見交換を実施している。

小型モジュール炉(SMR)

■小型モジュール炉(SMR)とは主に電気出力が30万㎾以下の軽水炉型で、小出力を活かして自然循環により冷却ポンプ・外部電源なしで炉心冷却し、モジュール工法により低コスト化・短納期化を実現する。世界的には、高速炉型や高温ガス炉型のSMR開発も進められている。
■開発の現状日立GEベルノバニュークリアエナジー「BWRX-300」米国NuScale powerのSMR(IHIと日揮が出資)中国核工業集団「ACP100(玲龍一号)」が先行し、海水淡水化・データセンター等の多様な用途が想定されている。国内では安全規制が整備されていない。

高速炉

■高速炉とは高速中性子により核分裂反応を維持し、ナトリウムや鉛ビスマス合金などを冷却材に使用する。燃料の増殖や放射性廃棄物の減容化が可能で、核燃料サイクルのキーとなる。
■開発の現状:実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」の開発を経て、2023年9月からGX経済移行債を活用してJAEA(研究開発統合組織)と三菱重工業(中核企業)により、実証炉の概念設計、要素技術開発、燃料の研究が進められている。
 2026年度には「燃料選択(酸化物燃料/金属燃料)」、2028年度には「基本設計への移行判断」のマイルストーンを設定している。

高温ガス炉

■高温ガス炉とは燃料にセラミック被覆燃料粒子減速材と炉心構造材に黒鉛冷却材にヘリウムガスを用いて900℃近くの高温で稼働する。そのため重大事故発生時にも、炉心は自然放熱により冷却され、水素を発生することもなく固有の安全性を有する。
■開発の現状:2023年8月からGX経済移行債を活用して、JAEA(HTTR水素製造試験)と三菱重工業(中核企業)により、HTTR(高温工学試験研究炉)を活用した水素製造、実証炉の概念設計、要素技術開発などが進められている。
 2027年度から始まる「実証炉の基本設計」2028年度から始まる「HTTRによる水素製造試験」のマイルストーンを設定している。

核融合炉

■核融合炉では:海水中に豊富に存在する重水素(D)と三重水素(T)を1億度以上の超高温プラズマ状態にし、原子核同士を融合させてヘリウム(He)に変換させる際に放出される膨大なエネルギーを利用する。主な炉型として、「トカマク型」、「ヘリカル型」、「レーザー型」が開発されている。
■開発の現状:2025年6月の国家戦略の改定を踏まえ、内閣府の核融合戦略有識者会議の下に設置された「フュージョンエネルギーの社会実装に向けた基本的な考え方検討タスクフォース」において、「フュージョンエネルギーの社会実装に向けたロードマップ」の案が提示された。
 世界に先駆ける2030年代の発電実証をめざし、原型炉計画の加速案を検討中である。

日本の原子力規制委員会(NRA)の動き

 原子力規制委員会(NRA)は、2012年9月19日、それまで原子力「利用」の推進を担ってきた経済産業省から安全規制部門を分離する目的で、環境省の外局組織として新設された。NRAは他の行政機関の指揮・監督を受けず、独自に安全規則制定や処分を行う権限を持つ独立性の高い組織である。

 一方で、日本経済団体連合会は、安定的な電力供給と2050年カーボンニュートラル達成の観点から、原発の最大限の活用を政府に要望し、大手電力会社は火力発電用燃料の輸入コスト高騰対策として、既存資産の有効活用として原発の再稼働を求めてきた。
 加えて「AI普及に伴うデータセンター増設」「ラピダスやTSMCなど半導体工場の国内誘致」が活発化することによる電力需要の増加を背景に、NRAでは原発安全規制の見直しを始めている。

 2023年2月、NRAは臨時会合で原子力発電所の「60年超」運転を可能にする新たな規制ルールを正式決定し、現行ルールを定めている原子炉等規制法の改正法案を了承した。委員5人のうち地震・津波対策を担当する石渡明委員1人が「安全側への改変とは言えない」と反対したが多数決で採決した。
 現行ルールで、原発の運転期間は「原則40年、最長60年」である。新ルールでは、NRAが運転開始から30年以降10年以内ごとに安全性を確認し運転延長を繰り返し認可する仕組みで、「60年超」運転を可能とする。経済産業省は、NRAの安全審査による停止期間などを運転期間から除外する方針である。
 石渡明委員は「60年目にどういう規制を行うか具体的になっておらず、見通しを決めるべきだ」、「今回の改正は科学的・技術的な新知見に基づくものではない」などの反対理由を述べた。

 2026年2月、NRAは、特定重大事故等対処施設(特重施設)の建設経過措置の見直しを公表。2013年の新規制基準施行時から5年と設定し、2016年改正で各プラントの設計及び工事計画の認可日から5年とされた。しかし、完成した12基の実績から5年で完成しない場合が多いための見直しである。
 記者からは「特重施設なしで運転する期間が延びるのではないか」「規制緩和に当たるのではないか」との指摘に、山中委員長は、特重施設は「完成の有無によってリスクが著しく上下する性質の施設ではない」とし、今回の議論は「規制緩和ではなく、継続的な規制の改善である」との認識を示した。

 2026年3月、原子力発電所の安全を巡る運用の見直し論が強まっている。すなわち、政府が原発の最大限の活用にかじを切り、事業者側から審査や対策の効率化を求める声が高まっている。
 現在、特重施設の建設には審査と工事に時間を要し、再稼働した原発が停止せざるを得ないなどの事象が起きている。NRAは審査の効率化を検討し、確認する項目は減らさないとしている。

 原子力規制委員会(NRA)の基本ルールは、科学的・技術的見地から最新の知見を反映させ、原子力施設に最新の安全基準を適用することにある。
 当初に決めたルールを愚直に押し通す必要はない。環境が変われば新ルールを構築し、あらたな目標の実現に向けて努力を継続するのみである。重要なのは最新の安全基準を適用することであり、新ルールが安全を後退させるものであってはならない
 日本は火山・地震・台風などの災害大国で、福島第一原発事故を経験した。そこに生きる人達に新ルールが安全を後退させるものと認識された時に、NRAの信頼は根底から損なわれる。

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