世界的な業務・産業用燃料電池メーカーとして、2000年頃から販売を継続している富士電機(PAFC)、米国ブルームエナジー(SOFC)、米国フューエルセル・エネルギー(MCFC)があげられる。
一方、国内では、GTーSOFCハイブリッド機を商品化した三菱重工業や、FCEVで先行した自動車メーカー、エネファームメーカーが業務・産業用燃料電池市場への参入を進めている。
業務・産業用燃料電池の開発経緯(2000年頃~現在)
富士電機のリン酸型燃料電池(PAFC)
富士電機は、1998年にリン酸型燃料電池(PAFC:Phosphoric acid fuel cell)「FP-100E」を商品化し、国内で唯一、リン酸型常圧水冷式燃料電池の販売を継続している。2018年4月現在で、日本を中心に、韓国、ドイツ、米国、南アフリカに計86台と豊富な納入実績を有している。
現在は、都市ガス型の「FP-100i」(作動温度:200℃、出力:105kW、発電効率:42%、総合効率:91%)と、バイオガスの下水消化ガス(メタン:60%、CO2:40%)型の「FP-100iB」を商品化。また、柔軟な容量拡張性のあるPEFC型水素燃料電池システム(出力:50~480kW、発電効率:40~50%)の受注を始めている。
また、2014年からNEDOプロジェクトに参画してSOFCの要素技術開発を進め、2017年から千葉工場で3000h以上の実証評価を行っている。2018年10月に都市ガス型の業務用SOFC(出力:50kW、発電効率:55%)の販売も報道されたが、商品化には至っていない。
米国ブルームエナジーの固体酸化物型燃料電池(SOFC)
2001年設立の米国カリフォルニア州ベンチャー企業のBloom energy(ブルームエナジー)は、SOFC型「ブルームエナジーサーバー」(出力:200kW、発電効率:53%)の開発・製造・販売を進めている。2008年7月にGoogle本社に400kW機、2010年9月にAdobe本社に1200kW機など、30台の納入実績を有する。
都市ガス・バイオガス型で、寸法は幅8m×奥行2.6m×高さ2.1m。米国では分散型電源としてデータセンター、工場、大規模商業施設、官公庁など、持続的な電力供給を必要とする施設で導入されている。
2013年7月、ソフトバンクとブルームエナジーは、ブルームエナジージャパンを設立し、産業用SOFC「ES-5700ブルームエナジーサーバー」の輸入販売を発表。セルスタックは、潮州三環集団製を採用している。
顧客敷地内にサーバーを設置し、発電した電力を販売する仕組みで、顧客は初期投資や発電に使うガス代などは支払わずに電気料金のみを支払う。料金は系統電力と同等か少し下回る程度に設定し、標準で20年程度の長期契約を結び、契約期間中は電気料金を変更しない。
2013年11月、都市ガス型の国内初号機を、福岡市内のソフトバンク「M-TOWER」に設置して運転を開始。その後、2014年6月に慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスと東京汐留ビルディングに200kW機を設置するなど、これまで計8台を可動。最大容量は、2019年4月の韓国ブンダン複合火力発電所の8350kW機である。
顧客敷地内にサーバーを設置し、発電した電力を販売するブルームエナジーの戦略は、顧客に初期投資やメンテナンス費用を負担させない新しいやり方である。さらなる定置用燃料電池の普及拡大のためには、顧客にメリットのある新しい仕組み作りが必要であることは間違いない。
米国フューエルセル・エネルギーの溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)
米国コネチカット州ダンベリーのFuelCell Energy(フューエルセル・エネルギー)は、1970年頃に600℃レベルの高温で作動する溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC:Molten Carbonate Fuel Cell)を開発・商品化し、発電設備(出力:300、1400、2800kW、発電効率:47%)を、米国内だけでなく欧州や韓国でも稼働させている。
また、SOFC(出力:250kW、発電効率:天然ガス62%、バイオガス58%)も商品化しており、コミュニティー向けの中規模発電設備として商品化している。
溶融炭酸塩を電解質に使うMCFCは、燃料電池が水素で発電する際の酸素として火力発電所からの排ガスを供給すると、電解質がCO2を吸収して排出される水蒸気中のCO2濃度が高くなる。そこで、MCFCを使った火力発電所からのCO2回収・貯留技術の商品化も進めている。
2012年3月、韓国の鉄鋼会社Posco(ポスコ)に新エネルギー発電プラント向け製品を供給するほか、MCFCのライセンス生産の提携強化で合意した。子会社のポスコエナジーは、韓国内に生産能力が最大14万kW/年となるMCFC製造工場を設立している。
2020年9月、固体酸化物型電解セル(SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell)の商品化に向けた開発に、米国エネルギー省から300万ドルの補助金を受け、SOEC(水素生産能力:600kg/日、変換効率:HHV90%)の商品化を進めている。
2024年5月、北米トヨタ(Toyota Motor North America, Inc. )と、カリフォルニア州ロングビーチ港の完成車の物流拠点(トヨタロジスティクスサービス)で、バイオマスからグリーン水素・電気・水を生み出す世界最大級の燃料電池施設「Tri-Gen(トライジェン)」を開設した。
「Tri-Gen」は、水素製造施設(製造能力:1.2トン/日)、MCFC発電所(出力:2300kW)、水素ステーションが併設され、畜産場の家畜排泄物や余剰食品等の廃棄物系バイオマスから水素を取り出し、FCEV「ミライ」やゼロエミッショントラックに供給している。さらに、最大1400ガロン/日の水供給も行う。
三菱重工業の加圧型SOFCーMGTハイブリッドシステム
三菱重工業は、円筒型セルスタックの加圧型SOFC(作動温度:700~1000℃)で、都市ガスを改質して水素と一酸化炭素を作り、SOFCで使いきれない都市ガスを、トヨタ・タービンアンドシステム製のマイクロガスタービン(MGT)で燃焼させる加圧型複合発電システム(ハイブリッドシステム)を開発した。
2013年9月、SOFC-MGTハイブリッドシステム「MEGAMIE」(出力:250kW、発電効率:55%)の実証試験により、4000h超の長時間連続運転を達成した。その結果を受けて、2015~2017年にNEDOプロジェクトにより、国内4地点で改良型ハイブリッドシステムの実証試験が繰り返され、2017年8月に商品化した。
2019年2月、商用初号機「MEGAMIE」(作動温度:900℃、出力:220kW、発電効率:55%)が、三菱地所東京丸の内ビルディングで稼働した。安藤・間技術研究所(水素利活用)、アサヒビール茨城工場(バイオガス利活用)、2021年にドイツのガス・熱研究所(Gas-und Wärme-Institut Essen)に納入を発表した。
また、2020年1月、日本特殊陶業と円筒セルスタックの製造販売の共同出資会社Cecylls(セシルス)を設立してSOFC事業を進めているが、赤字を継続している。
一方、NEDOプロジェクトにより、MGTを適用したMW 級システムの開発を進めており、さらにMGTに代わりターボチャージャーを空気供給源とした「改良型MEGAMIE」の開発も推進している。
自動車メーカーによる産業用燃料電池の開発
2016年1月、本田技研工業が英国Ceres power(セレスパワー)と家庭用SOFCの共同研究を始めた。セレスパワーのSOFCスタックは、酸化セリウム系電解質(CGO)セルを採用したフェライト系ステンレス鋼基材の金属支持型セルで、作動温度:550~600℃、発電効率:50%以上である。
同年6月、セレスパワーは、EVの航続距離拡大のための車載用SOFCスタック開発を目的とした英国日産自動車、インクジェット印刷技術の英国M-Solvとのコンソーシアムを発表した。バイオ燃料のような代替燃料を使用し、世界的な自動車排ガス規制をクリアする狙いである。
同年9月、セレスパワーは米国カミンズと5kW-SOFCモジュラーシステムの開発計画を発表。高い発電効率と最大出力:100kWまでの複合分散型電源利用を想定し、データセンター市場のほか商用熱電併給など幅広い適用を想定する。作動温度を下げれば、周辺機器の耐高温性も不要で、低コスト化が実現できる。
2019年9月、トヨタ自動車は定置型燃料電池(定格出力:100kW)を開発し、愛知県豊田市の本社工場敷地内に設置して実証運転を開始した。FCEV「ミライ」用のFCスタックや蓄電池など2セットで構成され、2020年12月まで実証試験を進めて商品化をめざす。
2020年12月、ドイツのBosch(ボッシュ)は英国セレスパワーとの連携強化に合意し、2024年の産業用SOFCの本格生産(出力規模で約20万kW/年)に向けた計画を発表した。2023年7月、シュトゥットガルトのフォイヤバッハ工場で、燃料電池パワーモジュールの量産を開始した。パイロット顧客は米国ニコラ・モーターズである。
2024年3月、日産自動車は、栃木工場でのバイネックスと共同開発したバイオエタノール燃料の定置型SOFC(出力:3k W)の試験運用を発表。2027年までに耐久性に優れた金属支持型セルで出力:5kW、2029年に出力:20kW、その後も段階的に出力を高めて工場電源として利用する。
また、日産自動車は、オーストラリアでソルガム(別名:タカキビ)の栽培からバイオエタノール製造まで、バイオマス発電の電力を使う計画で、将来的にはバイオエタノールからメタネーション技術により樹脂を合成し、自動車部品として使うことを想定している。
「エネファーム」メーカーによる産業用燃料電池の開発
2021年10月、パナソニックは高純度の水素で発電する純水素型PEFC「H2 KIBOU」の発売を開始した。セルスタックを「エネファーム」と共用化し、業務用途をターゲットに単相3線式のPH1(出力:5kW、発電効率:56%)で、複数台を連結制御することでMWクラスへの出力アップに対応する。
2023年6月、三相3線式あるいはDCに対応した「PH1+(三相線タイプ)」を最大出力を高めて、2024年12月に三相3線式の「PH3」(出力:4~9.9kW、発電効率:56%)を発売する。システム全体の構成を見直して初期コストを低減し、総点検停止までの期間を15年に拡大してライフサイクルコスト(kWh単価)を低減する。
2024年3月、アイシンは家庭用燃料電池「エネファーム」で培った技術を生かし、高効率な産業用純水素SOFCや固体酸化物型電解セル(SOEC)の実用化を加速している。水素還流技術を採用するなどして発電効率を高め、SOFCは2024年度中に自社工場や事業所での実証を開始する。
政府の示す「水素基本戦略」では、業務・産業用燃料電池の発電効率を現状の40~55%から2030年には60%への引き上げをめざしており、アイシンも「純水素型SOFC」で60%を目標とする。また、アルミニウム溶解炉の排ガスからCO2を分離・回収し、水素と反応させる「SOECメタネーション」の開発も進める。
その他、産業用燃料電池関連の動向
2014年7月、米国GEが産業用SOFC市場への参入を表明した。天然ガス型で出力:1000kW~1万kW、発電効率:65%、総合効率:95%。フェライト系ステンレス鋼支持基板上にアノード(Ni-YSZ)と緻密質電解質(YSZ)の形成に溶射技術を適用し、カソード(LSCF)はスクリーンプリント焼結した金属支持型である。
大学で金属支持型SOFCセル(出力:50kW)の実証試験で4万時間以上を達成し、ニューヨーク州北部に製造プラントを建設した。2014年にスタックデザインを完成し、2016年計画のFC-ガスエンジン・ハイブリットシステム(出力:1000kW)のプロトタイプ作製は中止し、SOFC単体(出力:1000kW)プラグラムへの変更を発表した。
しかし、その後のGEの動向は不明である。
一方、豊田通商は、2016年8月にカナダのバラードと純水素型燃料電池(出力:1.7/5kW、温度:70~90℃、効率:30~35%)、2020年11月にドイツのSFCと直接メタノール(90%)型燃料電池(出力:40~500W、温度:70~90℃、効率:<30%)などと販売契約を結び、小型燃料電池のラインナップを進めている。
これらのメタノール改質型燃料電池は、主にモビリティ向け、携帯基地局のバックアップ電源、 洋上風力発電用の風況観測機器用電源として活用されている。
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