2010年代のFCEVとBEVの開発競争(Ⅶ)

自動車

水素ステーションの設置状況

 当初、FCEVへの燃料補給方法は、水素ステーションから直接水素を補給する直接水素型と、メタノールやガソリン燃料から車載の燃料改質器によりで水素を取り出す車上改質型の2形式が検討されたが、現在は環境負荷低減から直接水素型が主流となっている。

 また、FCEVでの水素の貯蔵・車載方法は、高圧水素タンク方式、水素吸蔵合金方式、液体水素タンク方式が検討されたが、2001年4月に自動車への水素タンク積載が解禁され、水素吸蔵合金方式から高圧水素タンク方式が主流となっている。

 図6に、現在の水素ステーション構成例を示す。ステーション内に水素製造装置を有し、都市ガス、LPG、ナフサなどから水素を製造するオンサイト型と、外部で製造された水素を圧縮水素、液体水素(-253℃)の形で、カードル、トレーラーでステーションまで輸送するオフサイト型に分けられる。

図6 水素ステーション(オンサイト型、オフサイト型)の構成例
出典:水素供給・利用技術研究組合

 JX日鉱日石エネルギーは、既存のガソリンスタンドに水素、電気も含めて燃料を供給するオフサイト型マルチステーションを、2014年12月に神奈川県海老名市に開設した。同社根岸製油所で製造した水素を専用トレーラーで輸送し、蓄圧器(ボンベ)に充てん圧力:70MPaで貯蔵する。
 従来から、市街地にガソリンスタンド併設型で70MPaの設備は設置できなかったが、2012年11月に「一般高圧ガス保安基準」が改正されて可能となった。圧力容器の設計基準や使用可能鋼材の制約の見直しなども行われ、欧米なみ整備費(欧米:1~2億円、日本:5~6億円)への低減が進められている。

 再生可能エネルギーによるオンサイト型水素ステーションの設置も進められており、2014年12月に本田技研工業は北九州市、岩谷産業と共同で、パッケージ型のスマート水素ステーション(SHS)を、北九州市エコタウンセンターに設置している。
 太陽光発電システムの電力で圧縮機が不要な自社製高圧水電解システム(充填圧力:35MPa)を採用し、高圧タンクから充填ノズルまでの主要構成部品をパッケージ化することで設置工期と面積を大幅に削減し、2017年10月までに全国15カ所に整備、2018年から充填圧力:70MPaの設置を進めている。

 2015年3月、三菱化工機は福岡市中部水処理センターに汚泥の発酵で発生したバイオガスを改質し、オンサイト型水素ステーション(充填圧力:82MPa、水素製造能力:3300m3/日)を設置した。九州大学、豊田通商と協力し、膜分離設備を組み合わせて消化ガスから高品質の水素を精製する。

 2015年2月には豊田通商、岩谷産業、太陽日酸が、新会社の「合同会社日本移動式水素ステーションサービス」を設立した。三井住友ファイナンス&リースが岩谷産業と太陽日酸から移動式水素ステーションを買い上げて運営会社にリースする。豊田通商はステーション設置場所の確保などを手掛ける。
 オフサイト型の移動式水素ステーションは、トレーラーに充填用の水素タンクを積み込んでいる。小スペースにも置けるため、公共施設や商業施設の駐車場などに止めて水素を供給する。

 2019年3月には、東邦ガスは中部国際空港に、2006年度建設の実証用水素ステーションを建て替え、FCバスの充填基準に適合したセントレア水素ステーションを設置した。空港内を中心に知多半島周辺への水素供給が目的で、オンサイト型で充填圧力は70MPa、供給能力は300m/hである。

 2019年3月には、JERAが水素事業への参入を発表した。東京電力フュエル&パワー、JXTGエネルギーと共同で、大井火力発電所の一角に都市ガスを改質して水素を製造するオンサイト型の東京大井水素ステーション(水素供給能力:14400Nm3/日)を設置した。
 2020年8月からENEOS水素サプライ&サービスとして稼働しており、東京五輪・パラリンピック2020で導入したFCバス100台への水素供給拠拠点である。

 2019年12月、東芝エネルギーシステムズと敦賀市は太陽光発電の電力により水素を製造し、FCEVに充填できるシステム「H2One ST Unit」を市内に導入し、オンサイト型水素ステーションを開設した。
 2020年11月には、自立型エネルギー供給システムであるワンコンテナ型「H2One」を増設し、太陽光発電由来の水素供給に加えて、水素タンクから必要な時に燃料電池で電力供給を行う「H2Oneマルチステーション」1号機を開設した。

コメント

タイトルとURLをコピーしました