国内でのCCS事業化の動向(Ⅱ)

火力発電

 JOGMECのCCS事業に選定された9案件には、発電、石油精製、鉄鋼、化学、紙・パルプ、セメント等の多様な企業が参画し、産業が集積する北海道、関東、中部、近畿、瀬戸内、九州等のCO2排出に対応する。9案件合計で約2000万トン/年のCO2貯留を目標とする。次に、①~⑤の詳細を示す。

CCS事業①~⑤の詳細

①苫小牧地域CCS事業

 2021年6月、日本CCS調査(JCCS)、エンジニアリング協会(ENAA)、伊藤忠商事、日本製鉄は、NEDOプロジェクト「CCUS研究開発・実証関連事業/苫小牧におけるCCUS大規模実証試験/CO2輸送に関する実証試験」に採択された。
 2030年頃のCCUSの社会実装に向け、100万トン/年規模のCO2供給地点から利用・貯留地点への長距離・大量輸送と低コスト化に繋がる輸送技術の研究開発を行い、実証試験及び関連調査を実施して液化CO2の船舶輸送技術の確立をめざす。

液化CO2の船舶輸送技術を確立(JCCS、ENAA)
 船舶の基本設計、国際的なルール形成への参画など、液化CO2船舶輸送の社会実装に向けた準備を進める。特に、液化CO2のドライアイス化の制御を含む安全性の確保をめざす。
1万トン/年規模のCO2船舶輸送の実証試験(JCCS、ENAA)
 液化CO2を1千トン程度輸送できる実証船を手配し、年間10航海程度の運航を行う。また、実証試験用の陸上設備として、出荷基地を関西電力舞鶴発電所敷地内に、受入基地は苫小牧に設営する。
CCUSを目的とした船舶輸送の事業性調査(伊藤忠商事、日本製鉄)
 CO2回収・輸送事業の実現に向け、製鉄業を含む国内の様々な多量排出源からのCO2輸送に係るビジネスモデルを検討する。
*特定課題は、商船三井、川崎汽船、日本ガスライン、お茶の水女子大学他に再委託する。

図2 NEDOプロジェクトによる液化CO2の船舶輸送の実証取組み 出典:経済産業省

■2024年10月、石油資源開発(JAPEX)、出光興産、北海道電力は、JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」で、「苫小牧エリアにおけるCCS事業に係る設計作業等」の契約を締結した。
 CO2分離・回収は出光興産と北海道電力が、それぞれのCO2排出源で必要な設備の設計、CO2輸送・貯留はJAPEXが各排出源と貯留候補地をつなぐパイプラインや設備の設計を実施する。

 苫小牧地域は2019年までに約30万トンのCO2圧入実績があり、JAPEXは2030年時点のCO2貯留量約150~200万トン/年に向け、苫小牧海域の深部塩水層への圧入やモニタリングに必要な設備の設計を行い、予定地の貯留ポテンシャル評価を実施する。

図3 北海道苫小牧地域におけるCCS事業 出典:北海道電力

 2025年2月、経済産業省は、国内初のCCS事業化候補地として北海道苫小牧市沖を「特定区域」に指定。地層の試掘調査に100億円規模の支援を行い参画企業の公募を進める。今秋の試掘開始を進めて地下1000~1500mの地質を調べ、2026年までに大規模貯留の適否を確認する。

②日本海側東北地方CCS事業

■2024年9月、伊藤忠商事、日本製鉄、太平洋セメント、三菱重工業、INPEX、大成建設、伊藤忠石油開発は、JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」で、「日本海側東北地方におけるCCS事業に係る設計作業等」の契約を締結した。
 2023年度に実施したCO2の分離回収・輸送・貯留の事業性調査に基づき、基本設計作業、試掘調査等を行い、2030年度の操業開始をめざす。

 日本製鉄の九州製鉄所大分地区と太平洋セメントグループのデイ・シイ川崎工場から分離回収・液化したCO2を、三菱重工業が出荷基地で貯留・船舶輸送し、INPEXと大成建設が受入基地の設計とCO2の圧入・地下貯留伊藤忠商事と伊藤忠石油開発が事業全体のとりまとめと進捗管理を行う。

図4 日本海側東北地方におけるCCS事業  出典:三菱重工業

③東新潟地域CCS事業

■2024年9月、石油資源開発(JAPEX)、三菱ガス化学(MGC)、東北電力、北越コーポレーションは、JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」で、「東新潟地域におけるCCS事業に係る設計作業等」の契約を締結した。
 2023年3月に新潟県が公表した「新潟カーボンニュートラル拠点開発・基盤整備戦略」の対象エリアであり、2023年度に実施した事業性調査に加え、「CCSバリューチェーンにおける設計」と「CO2貯留予定地の貯留ポテンシャル評価」を実施し、2030年までのCCS事業の開始をめざす。

 JAPEXは、CO2輸送パイプライン、CO2圧入・貯留の坑井・設備の設計と、CO2貯留予定地の貯留ポテンシャル評価を行う。MGCは自社工場のCO2分離回収設備の設計、東北電力は自社火力発電所のCO2分離回収設備の設計、北越コーポレーションは自社工場のバイオマス燃料由来CO2の分離回収設備の設計を行う。

図5 東新潟地域におけるCCS事業  出典:東北電力

④首都圏CCS事業

■2024年8月、INPEX、日本製鉄、関東天然瓦斯開発は、JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」で、「首都圏におけるCCS事業に係る設計作業等」の契約を締結した。
 2023年度に実施した事業性調査に加え、「CCSバリューチェーンにおける設計」と「CO2貯留予定地の貯留ポテンシャル評価」を実施し、2030年までのCCS事業の開始をめざす。

■東日本製鉄所君津地区及び京葉臨海工業地帯の複数産業を排出源とするCO2の回収(日本製鉄
■パイプラインで輸送し、千葉県外房沖の海域への貯留(INPEX、関東天然瓦斯開発

 2025年4月、INPEXと関東天然瓦斯開発は、JOGMEC委託事業で推進中の「首都圏 CCS 事業」を加速するため、合弁会社「首都圏 CCS 」を設立した。首都圏CCSは、CCSバリューチェーンの輸送・貯留を担当し、CO2貯留評価および輸送導管敷設ルート検討を含む技術検討・評価並びに事業性評価を行う。

⑤九州西部沖CCS事業

 2022年5月、電源開発とENEOSホールディングスは2030年までに国内CCSの事業化をめざすと発表。電源開発は石炭火力発電、ENEOSは石油精製過程で発生するCO2を回収する。2023年以降に設計を進め、2026年を目途に事業化を判断、他社が排出したCO2の貯留も視野に入れる。

 2023年2月、電源開発、ENEOS、JX石油開発は、国内CCSの事業化準備を加速するため、合弁会社「西日本カーボン貯留調査」を設立。西日本地域で、2030年のCO2圧入開始をめざす。

■2024年10月、電源開発、ENEOS、JX石油開発、西日本カーボン貯留調査は、JOGMECの「先進的CCS事業に係る設計作業等」で、「九州西部沖におけるCCS事業に係る設計作業等」の契約を締結した。

 ENEOSの瀬戸内・九州地域の製油所、電源開発の火力発電所から排出されるCO2を分離回収・輸送し、JX石油開発と西日本カーボン貯留調査が、九州西部沖の海域帯水層へCO2貯留に向けて試掘調査や貯留層の評価を行う。西日本でのCCSバリューチェーンの、2030年実装開始をめざす。

図6 九州西部沖におけるCCS事業 出典;電源開発

コメント

タイトルとURLをコピーしました