風力発電所の相次ぐ中止・撤退!(Ⅲ)

再エネ
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 高いポテンシャルを有する風力発電であるが、三菱重工業、日立製作所など国内有数の風力発電機メーカーの撤退が相次いでいる。そのため国内の風力発電設備の累積導入量は、海外メーカー製が73.3%を占め、今後も海外メーカーが占める割合は高いレベルで推移する。
 陸上風力発電では金風科技(Goldwind)、遠景能源(Envision)、東方電気(Dongfang)、華鋭風電(Sinovel)など中国メーカーの安値攻勢が始まり、新市場を大型風車の洋上風力発電に求めたが、再編成が進み規模で先行する欧州メーカーとのコスト競争に負けた結果である。

国内の風力発電機メーカーの動向

三菱重工業

 1980年には定格出力:40kWの初号機を自主開発し、2009年末までに米国を中心に世界10カ国に累積出力:330万kW、合計3705基の風力発電機を納入した。大型風車は1999年の定格出力:1000kW級始まり、2003年に2000kW級、2006年には2400kW級でロータ直径92mの風力発電機を開発した。

 その後、定格出力:2500kW級でロータ直径102mの風力発電機(MWT102A/2.5)を商品化した。しかし、2008年以降に米国GEと風力発電機の特許訴訟で係争し、2013年12月に和解したが、その間、訴訟リスクを抱えた風力発電機は販売できず、陸上風力発電市場から撤退した。
 2015年12月、日立製作所が三菱重工業の2500kW級風車の製造、販売および保守などに係るライセンス供与(国内陸上風力発電所向け)を受け、ラインアップに加えた。

 2014年4月、デンマークのヴェスタス(Vestas Wind Systems)と共同出資で、洋上風力発電専業のMHIヴェスタス・オフショア・ウィンド(MHI Vestas Offshore Wind A/S)を設立した。中国勢が参入できていない定格容量:5000kW以上の洋上風力市場を対象に、大型化技術で差異化を目指した。
 
 2020年10月、MHIヴェスタス・オフショア・ウィンドの三菱重工業の保有株をヴェスタスに譲渡すると発表し、2021年2月、ヴェスタスとの共同出資で国内で陸上・洋上風力発電設備を販売する合弁会社MHIべスタスジャパン(MHI Vestas Japan)を設立し、洋上風力発電の開発から事実上撤退した。

日立製作所

 2012年7月、提携関係にあった富士重工業の風力発電部門を買収した。世界的にも珍しいダウンウィンド型で、定格出力:2000kWでロータ直径80mの風力発電機(HTW2.0-80)を商品化した。その後、定格出力:5000kWのダウンウィンド型洋上風力発電機(HTW5.0-126)を商品化した。

 ダウンウィンド型風力発電機はナセルの後方(風下側)にブレードが設置され、ブレードとタワーの接触を考慮する必要がない方式で、2016年秋からアジア地区で欧州勢に対抗して受注活動を進め、2018年4月、同社初となる海外案件として、台湾電力と洋上風力発電機の受注契約を締結した。

 しかし、欧州勢とのコスト競争力に負け、2019年1月に風力発電機の製造からの撤退を表明した。今後、ドイツ・エネルコン製風力発電機をコア製品とし、保守管理や運転支援、蓄電池活用の次世代サービスを日立パワーソリューションズと統合して進めると発表した。

 日立パワーソリューションズはドイツのエネルコンと2002年に販売契約を締結し、定格出力:900~4200kW機の風力発電機の販売を手掛けており、2019年2月時点で合計335基(出力ベースで約67万kW)を超え、国内シェア14%である。

日本製鋼所

 米国GE製の風力発電機の輸入販売を行っていたが、永久磁石励磁同期ギアレス風力発電機を開発し、ブレード製造専門工場を室蘭製作所内に建設し、2005年10月より製造販売を開始した。
 JSW J82-2.0機(定格出力:2000kW、ロータ径83.3m)と、J100-3.0機(定格出力:3000kW、ロータ径103.9m)を商品化したが、2018年3月に新規販売を中止、保守サービス事業に特化する。

駒井ハルテック

  駒井ハルテックは、日本の気象や地形にあった定格出力:300kWでロータ径33mの日本型仕様風車(KWT300)を商品化した。KWT300機は強い台風にも対応できる耐風速70m/sの疲労強度を有し、耐雷性、耐震性にも優れた設計基準が取り入れられている。

東芝

 2012年6月、韓国の風力発電機メーカーのユニスン(定格出力:2000kW)に資本参加し、2018年10月、ドイツのセンビオン(定格出力:1500~6200kWの5機種)と国内販売で提携するが、センビオンが経営破綻したため、米国GE製の風力発電機の販売に方針を変更した。

 2021年2月、米国GEと洋上風力発電の基幹部品であるナセルの共同生産(当面は東芝が組立を担当)で提携した。GEは陸上風力で高いシェアを持つが、洋上風力では圧倒的に出遅れている。そのため、大型洋上風力案件が期待できる日本での拠点確保を目指していた。

日立造船

 2014年4月、ノルウェーの国営石油会社スタットオイルと浮体式洋上風力発電の事業化で契約を締結した。2009年にスタットオイルはノルウェー沖に浮体式洋上風力発電の実証設備を設置しており、定格出力:5000~6000kW機で日本の洋上風力市場への参入を発表している。

風力発電の普及促進の取組み

環境アセスメントの期間短縮

 国内での風力発電の開発を妨げている要因として、運転開始までに長期間を要することがあげられる。大規模メガソーラーでも2年程度で運転開始できるが、風力発電は5~8年を要する。出力:1万kW以上の場合に環境アセスメントが必要で、建設に着手できるのは手続き開始から3~4年後になる。

 導入が進む米国・スペイン・英国などでは、環境アセスメント期間は1~2年と短い。経済産業省は2015~2018年度に必要な調査を前倒しで実施する実証事業を進め、「発電所に係る環境影響評価の手引き」に反映させて期間を1.5~2年に半減させ、事業者のコスト負担を大幅に軽減する方針を表明。 

風力発電の普及支援

 2015年度からNEDOは風力発電設備のメンテナンス技術を高度化し、発電効率の改善を支援している。風車の振動を感知するセンサーを使って遠隔監視を可能にし、設備のメンテナンス時期や部品の交換時期を予測するスマートメンテナンス技術の開発である。
 同時に風力発電のメンテナンス作業に習熟した人材を育成するため、育成プログラムの整備と合わせて日本風力発電協会がメンテナンス能力を評価する資格認証制度を検討している。

 2016年5月、損害保険ジャパン・日本興亜・SOMPOリスクケアマネジメントは、東京大学・英国のSOMPOキャノピアスと共同で、日本の陸上・洋上風力発電所のリスク評価モデルを開発した。
 2017年1月には、SOMPOリスクケアマネージメントが風力発電所の落雷の可能性や故障しやすい設備の予測、故障時の予想損出額の推定などのリスク診断サービスを開始した。

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