進むネガティブエミッション技術(Ⅰ)

エネルギー

 近年、米国、欧州(EU)、英国などから、大気中のCO2除去(CDR)の必要性とそれを実現するためのネガティブエミッション技術(NETs)への取組方針が相次いで公表された。
 遅ればせながら、日本でも「2050年カーボンニュートラル」の達成にはNETsの導入拡大が必須であるとし、社会実装に向けた積極的な政策支援を進めると公表した。

ネガティブエミッション技術とは

 「2050年カーボンニュートラル」の達成には、最大限の温室効果ガス(CO2など)の排出削減を行っても、排出が避けられない分野からの排出(残余排出)を相殺する必要が生じる。この手段として、大気中のCO2除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)が必須となる。

 世界的には、2050年に約20~100億トン/年のCO2除去が必要とされている。既に、米国、欧州(EU)、英国などではネガティブエミッション技術(NETs:Negative Emission Technlogies)と今後の取組方針を公表し、導入拡大・社会実装に向けた積極的な政策支援を開始している。

 日本でも、産業・運輸部門を中心に想定される約0.5~2.4億トン/年の残余排出を相殺するためには、同量のCDRが必要である。しかし、希薄な大気中からのCO2除去には、発電所などからのCO2分離固定(CCS)に比べ高コストとなる。

 2023年6月、経済産業省は「ネガティブエミッション市場創出に向けた検討会」を開催し、国内外におけるNETsの技術開発動向、ビジネス動向、NETsの産業化にあたり重視すべき要素等を整理し、今後の方向性やルール形成や、市場創出に向けた方針を検討している。

様々なネガティブエミッション技術

 ネガティブエミッション技術(NETs)は、大気中のCO2を回収・吸収し、貯留・固定化することで、現状よりも大気中に含まれるCO2濃度を下げる(負にする)ための技術と定義される。
 すなわち、植林や海洋吸収など自然界で進むCO2吸収・固定化の過程に、人為的な作業を加えることで大気中のCO2除去を加速させる技術やプロセスの総称である。

 植林や海洋吸収などの多くは、グリーン社会の実現に向けた国土交通省の重点プロジェクト「国土交通グリーンチャレンジ」や、ブルーインフラの拡大により進められているが、近年、より積極的に大気中のCO2を分離・吸収し、貯留・固定化する技術が注目されている。
 すなわち、バイオエネルギーを使って炭素を回収・貯留するBECCS(Bio Energy with Carbon Capture and Storage)と、大気中から直接炭素を回収・貯留するDACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)である。

表1 大気中のCO2を回収・吸収し、貯留・固定化するネガティブエミッション技術  出典:NEDO

CO2の除去コストと削減ポテンシャル

 海洋アルカリ化を除き、ネガティブエミッション技術の多くが2050年に1トンあたりのCO2除去コストが200ドル以下になると予測されている。しかし、海洋関連風化促進DACCSバイオ炭など、今後、実効性の検証も含めて開発途上にある技術が多い。

 自然界にCO2を貯留するネガティブエミッション技術は、低濃度のCO2を低コストで固定できる能力を有すると考えられている。しかし、気象や気候による変動が顕著で、実際のCO2削減量のカウントが困難な場合が多い。今後、CO2削減量の評価方法や、国際的な認証システムが必要である。
 実際に、植林(新規植林・再植林)によるCO2除去コストは、他の方法より大幅に安い5~50ドル/トンで、2050年のCO2削減ポテンシャルは41億トン/年と予測されている。しかし、植林で多量のCO2削減を実現するには、多くの土地や水が必要になる。

 一方、工学プロセスを活用するDACCSやBECCSは、気象や気候による影響を受けず、CO2除去効果の定量的評価が可能で、2050年のCO2削減ポテンシャルはDACCSが29億トン/年、BECCSが50億トン/年と予測されている。しかし、CO2除去コストは110~180ドル/トンと割高である。
 また、いずれの場合のCO2削減ポテンシャルも、分離したCO2の貯留方法を確保できるか否かによって大きく変化することに注意が必要である。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「地球温暖化1.5度特別報告書」では、BECCSのCO2除去コストは100~200ドル/トン、2050年のCO2削減ポテンシャルは5~50億トン/年。また、DACCSにのCO2除去コストは100~300ドル/トン、CO2削減ポテンシャルはBECCSと同じと推計している。

図1 各種ネガティブエミッション技術の2050年における削減コスト見通し  出典:NEDO

注目されるBECCSとDACCS

 主要国の温暖化対策の長期シナリオでは、温室効果ガス(GHG:GreenHouse Gas)排出抑制やカーボンニュートラルの達成に向け、過去に排出されたCO2を人為的に回収・除去するネガティブエミッション技術の決め手として、BECCSとDACCSが大きな役割を果たすことを期待している。

 すなわち、2050年におけるBECCSとDACCSによるCO2除去率を、2020年のGHG総排出量に対して中国は6.4%、フランスは3.4%、英国は12%、EUは6.1%と計画している。ドイツは2045年におけるCO2除去率を8.8%日本は2015年のGHG総排出量の14%をDACCSで除去するとしている。

表2 各国のシナリオにみるBECCSとDACCSによる2050年のCO2除去量
*1ドイツの除去量は2045年、*2日本のGHG排出量は2015年の数字

CO2除去コストの削減CO2削減ポテンシャルの実現を目指し、各国で支援が始まっている。■2021年7月、EUイノベーション基金は、アイスランド・ヘトリスヘイジ地熱発電所で、溶剤の替わりに水でDACCSを行うSilverstoneプロジェクトへの補助金を決定。
■2021年11月、EUイノベーション基金は、スェーデン・ストックホルムでのBECCSプロジェクトへの補助金を決定。
■2021年11月、米国エネルギー省は、DACCSのコストを1トンあたりCO2除去コストを100ドル未満にする「カーボン・ネガティブ・ショット」目標を発表。

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