進むネガティブエミッション技術(Ⅱ)

エネルギー

 2020年代に入ると、急速にバイオマス発電所へのCCS設備の導入が始まった。バイオエネルギーを使って炭素を回収・貯留するBECCSの1種である。
 基本的にバイオマス発電所はCO2排出量が実質ゼロとみなされるため、付帯されたCO2分離・回収(CCS)設備が稼働すれば、大気中のCO2を減らすネガティブエミッション(負の排出)発電所となる。具体的な、貯留・固定化方法については様々である。

バイオマス発電所へのCCS設備導入

 2020年代に入ると、急速にバイオマス発電所へのCCS設備の導入が始まった。基本的にバイオマス発電所はCO2排出量が実質ゼロとみなされるため、付帯したCCS設備が稼働すれば大気中のCO2を減らすネガティブエミッション(負の排出)発電所となる。

 バイオエネルギーを使って炭素を回収・貯留するプロセスはBECCS(Bio Energy with Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書でも、BECCSが脱炭素の有力な手段になる可能性を指摘している。
 また、バイオマス発電とCCSを組み合わせた技術が代表的なBECCSであるが、バイオマスからの水素製造やバイオプロセスで発生するCO2を回収・貯留するプロセスBECCSに含まれる。

世界の動向

 2017年、米国Archer Daniels Midlandは、トウモロコシからエタノールを製造する施設に100万トン/年のCO2回収能力のCCS設備を付帯し、イリノイ州産業炭素貯留プロジェクトを進めている。
 2021年現在、エタノール発酵で発生するCO2を対象とするCO2回収能力100万トン/年規模の複数のBECCSが北米で稼働中である。

 2021年3月、英国の木質ペレットを燃料とするDrax発電所が、CO2回収能力800万トン/年のBECCSプラント開発を英国政府に申請。2024年に建設開始、2027年に2基のうち最初のユニットが運転を開始する予定である。
 同社は、2019年にノースヨークシャーのSelby火力発電所の燃料を石炭からバイオマスに転換し、2020年に三菱重工業からCCS装置を導入して運転実績を積んできた。 

 その他、スウェーデンStokholm Exergi は、木質バイオマス発電所に80万トン/年のCO2回収能力のBECCSプラント開発を計画中で、ノルウェーFortum Oslo Varmeは、廃棄物発電所に20万トン/年のCO2回収能力のBECCSプラント稼働を2024~2027年に予定している。
 また、オランダTwenveは、廃棄物発電所に10万トン/年のCO2回収能力のCCS装置を設置し、2021年の稼働を予定している。回収されたCO2は温室で使用される。

 一方、CO2の貯留については地下貯留以外にも、生物資源を原材料として生物の活性化や環境の改善に効果のある炭化物(バイオ炭)によるCO2貯蔵や、バイオマスを熱分解によって液化したバイオリキッドを地中に注入する研究開発などが行われている。
 今後、より低コストで信頼性に優れた新しいCO2貯留方法が開発されるであろう。

国内で進む導入状況

 2020年10月に、環境省「環境配慮型CCS実証事業」で、東芝エネルギーシステムズはグループ会社のシグマパワー有明が所有する福岡県大牟田市の三川発電所(出力:5万kW)でCCS実証設備(500トン/日)の運転を開始。主燃料はパーム椰子殻(PKS)で、排出されるCO2の50%以上を回収する。

図2 シグマパワー有明の三川発電所で進めるBECCS実証試験 
出典:東芝エネルギーシステムズ

 2021年6月、三菱重工エンジニアリングと英国電力大手Drax Groupは、ノース・ヨークシャー州のバイオマス発電所で、「Advanced KM CDR Process」を長期使用する契約を締結した。

 2022年2月、日本製紙とタクマは、北海道苫小牧市の勇払バイオマス発電所(出力:7.5万kW)で、バイオマス発電に適した高効率CCS装置の開発を2023年から始めると発表。苫小牧CCS実証試験センターのCO2地下貯留施設と組み合わせて、2030年の導入・稼働を計画している。
 タクマはアミン化合物を溶かす溶媒に一般的な水を使わない方式で、100℃以下でも効率的にCO2を分離でき、分離に必要な熱量を1.5GJ/トン-CO2と従来比の半減を目指している。

 2022年6月、三菱重工エンジニアリングは、太平電業から受注した小型CO2回収装置の商用初号機の稼働を発表した。「ひろしま西風新都」のバイオマス発電所(出力:7000kW)に導入され、CO2回収量は0.3トン/日で、ほぼ全量を回収して構内の農業ハウスで活用する。
 小型CO2回収装置はモジュール化を進め、設置面積が長さ5mX幅2mで、製造工場からトラック輸送し、短期間で設置することができる。

BECCSの課題

 バイオマス発電とCCSを組み合わせたBECCSは、既に完成した技術の組合せであり、技術的な開発課題は多くはない。ただし、2050年のBECCSのCO2削減ポテンシャルは50億トン/年と予測されているが、このCO2削減ポテンシャルは、分離したCO2の貯留地を確保できるか否かで大きく変化する。
 そのため、地下貯留以外の様々なCO2貯留・固定化方法の開発が、低コスト化の開発と並行して継続的に進められている。

 また、BECCSのCO2削減ポテンシャルを達成するには、バイオエネルギー資源の持続可能な供給量や食料生産との競合が課題としてあげられている。すなわち、生物多様性などの自然環境保護や食料の安定供給などに悪影響を与えずにBECCSを進めるには、社会的な認知・合意が不可欠である。

コメント

タイトルとURLをコピーしました