進むネガティブエミッション技術(Ⅲ) 

エネルギー
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 DACCSは、大気中に含まれるCO2を直接吸着・吸収して回収し、貯留を行う技術で、大気中に含まれるCO2濃度は約0.04%と非常に低いため、大量の大気を効率よく処理する必要がある。そのためDAC設備の高効率化低コスト化は必須課題であり、研究開発が進められている。

直接空気回収技術(DAC) 

 火力発電所や化学プラントなど大規模なCO2発生源からの排気ガスにはCO2が10~15%程度含まれているのに対し、最近では、大気中に400ppm(0.04%)程度しか含まれない希薄なCO2の直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)技術が注目されている
 DACで大気中から直接CO2を回収し、貯留まで行う技術はDACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)と呼ばれ、ネガティブエミッション技術(NETs)の一つとして、急速に注目を集めている。 

 国際エネルギー機関(IEA)によると、既に、DAC設備はスイス、カナダ、米国など世界で18カ所に設置・稼働しており、CO2回収量は約1000トン/年程度である。しかし、2050年の温暖化ガス排出量を実質ゼロにするには、DACで2030年に6000万トン/年のCO2を回収する必要がある。

 DACCSでは、CO2を大気から液体溶剤や固体吸着材に吸収・吸着させ、CO2分離・回収して貯留する。回収したCO2を吸収・吸着材から分離させる再生段階には、熱を用いる「温度スイング吸着」、気圧変化を用いる「圧力(真空)スイング吸着」があり、大量のエネルギーを必要とする。
 DACで回収したCO2は、地下に貯留されたり(従来のCCS)、化学品、燃料、セメントなどの製造原料(CCUS)に使われて固定化・貯留される。

海外で進むDACCSの動向 

 2017年、スイスのスタートアップClimeworks(クライムワークス)は、アイスランドのHellisheidiでCO2回収能力50トン/年の小型DACCSを建設し、地下注入して鉱物化による貯留の研究を開始した。
 同年、スイスのHinwilではCO2回収能力900トン/年の小規模商用DACCSプラントを開設しており、回収されたCO2は温室・飲料用に使われている。

 2021年9月、クライムワークスは、アイスランドのHellisheidi(ヘトリスヘイジ)地熱発電所の隣接地で、CO2回収能力4000トン/年のOrca(オルカ)プラントの運転を開始した。現時点で世界最大のDACCSプラントである。
 ON Power(オンパワー)の地熱発電所から電力供給を受け、地下CO2鉱物化を専業とするCarbfix(カーブフィックス)が、回収されたCO2と水を混ぜて地下深くに注入し、鉱物化プロセスによりCO2の固定化を行う。 

 2022年6月、クライムワークスは、アイスランドでDACCSプラント(CO2回収能力3.6万トン/年)の建設に着工した。運転には隣接の地熱発電所の電力を使い、2023~2024年の稼働を目指す。クライムワークスは、2050年までにCO2回収能力10億トン/年を目標に掲げている。
 アミン系吸収材とγ- Al2O3やゼオライトを組み合わせた多孔質固体にCO2を吸収させる固体吸収法を採用し、回収したCO2は鉱物化プロセスにより固定化・貯留を行う。2030年に数百万トン/年規模が実現できれば250~350ドル/トンで回収可能で、長期的には100~200ドル/トンを目標としている。  

 2019年6月、米国エクソンモービルが米国スタートアップのGlobal Thermostatと提携。アミン系吸収材とハニカムセラミック「モノリス」を組み合わせた多孔質カーボン吸着材を利用したDAC装置を商品化した。吸収されたCO2は、低温蒸気(85~100℃)で分離・回収する。
 グローバル・サーモスタットは、2019年頃にアラバマ州のHunstsvilleにCO2回収能力0.4万トン/年の小規模DACCSプラントを開設しており、回収したCO2は食料・飲料用途に使われている。

 2022年5月、米国政府は国内4カ所に拠点を設け、5年間で補助金35億ドルをDACCS事業投じる方針を表明した。100万トン/年以上のCO2を回収するプロジェクトが対象で、事業化調査やプラント設計などの費用の一部を補助する。

 2022年8月、米国オキシデンタル・ペトロリアムと子会社1PointFive(ワンポイントファイブ)は、テキサス州にDACCSプラント(CO2回収能力が最大50万トン/年)の建設を発表した。水酸化カリウム溶液(KOH)でCO2を回収する方法を開発している。
 2024年後半に稼働し100万トン/年まで拡張可能。回収コストは300ドル/トン以上、量産化で150ドル/トン以下を目指す。

 2015年、カナダのスタートアップCarbon Engineerigは、ブリティッシュコロンビア州でCO2回収能力365トン/年の小型DAC設備を設置して研究を進めてきた。
 2022年、ベンチャー企業のOxy Low Carbon Venturesが設立したワンポイントファイブとともに、米国テキサス州Permian盆地に、CO2回収能力100万トン/年のDACCSプラントの建設を開始した。
 ワンポイントファイブはカーボン・エンジニアリングとも協力し、最大100万トン/年のDACCSプラントを、2035年までに70基つくる計画も発表し、需要があれば最大135基を建設するとしている。 

国内のDACCSの動向

 2021年2年、IHIは、そうまIHIグリーンエネルギーセンターで開発したDAC装置により100%濃度のCO2回収に成功し、4月から植物工場で実証試験に入る。回収したCO2は太陽光発電で生成した水素と反応させ、メタネーション実証装置(製造能力:12m3/h)でのグリーンメタン合成実証も行う。
 アミン系吸収溶液へ球体基材を浸し、引き上げて乾燥させたCO2固化吸収材を使い、ブロワーで空気を吸い込みCO2を吸収させ、CO2の分離時には加熱する。

 2021年12月、川崎重工業は固体吸収法によるDAC装置を実用化し、回収後のCO2貯蔵技術と組み合わせたDACCSの商品化を発表した。5㎏/日の実証試験を進め、2025年に500~1000kg/日(15~30万トン/年)に高めて、ビルや商業施設などでの設置を目指す。
 凹凸が多く表面積が大きい粒状物質の表面に特殊な溶液を塗り、大気と接触させてCO2を吸着させ、その後に60℃程度の低温蒸気で加熱してCO2を分離・回収する。

 2022年4月、三井物産はDACCSの事業化を発表した。英国スタートアップ企業とDAC技術の共同調査などで包括提携を締結した。水酸化カリウムや水酸化カルシウムの溶液などでCO2を回収する。 

 2022年9月、三菱重工エンジニアリングはRITEと共同で、DAC試験装置(数kg/日)を開発した。今後、CO2固体吸収材の評価を進めて、2020年代後半にパイロットスケールのDAC試験装置の設計と経済性評価を実施する。

 2022年11月、日本碍子は、プラント大手とDAC設備(数百~数千トン/年)を建設し、2025年に実証試験を開始する。自動車排ガス浄化用セラミックス「ハニセラム」内部に固体吸収材を塗布、ファンで空気を送り、CO2を吸着させたハニセラムを100℃程度に加熱してCO2を分離・回収する。
 2023年9月には、大気中のCO2を直接回収するDAC用セラミックスを公開した。

図3 DACとハニカム構造吸着材のイメージ  出典:日本碍子 

 日本ガイシは、自動車排ガス浄化用セラミックスで培ったセラミック製ハニカム構造体の技術を応用し、DAC向け吸着材に求められる「コンパクトかつ表面積が大きい」「圧力損失が低い(大量の空気を効率よく処理できる)」などの特長をもつDAC向けハニカム構造吸着材を開発中である。

 2023年8月、全日本空輸は、世界の航空業界で初めてDACCS事業を手がける米国1ポイントファイブと、2025年から3年間で3万トン以上のCO2クレジット(排出権)を購入する契約を結んだ。 

国内におけるDACの研究開発
■2019年から名古屋大学発スタートアップのSyncMOFは、約20社の工場で金属有機構造体(MOF)を使ったCO2回収の実証試験を進めている。MOFは狙った気体だけを大量に吸着する性質があり、アミン系溶液を使う従来方法に比べてコストを1/10にできる。
■2020年1月、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所とナノメンブレンは、高分子分離膜によりCO2を分離する膜分離法の開発を進めている。2022年2月には、双日と厚さ約30nmの薄膜でCO2を分離する技術の社会実装に向けた覚書を締結した
■2022年2月、三菱瓦斯化学・神戸学院大学はアミン系化合物を吸収材にしたDAC実証試験と吸収材開発の共同研究を発表した。メタキシレンジアミン(MXDA)用いると、大気中の水分の影響を受けずCO2のみを吸収できるため、CO2脱離時の効率を大幅に改善できる。
■2022年5月、東邦ガスは名古屋大学などとLNGの未利用冷熱を活用するDAC試験装置(1トン/年)を2024年度までに試作し、2029年度に大型プラントの稼働を目指す。CO2吸収液をLNGでー140℃以下に冷却してCO2を固化、常温で復温・気化させ高圧CO2を直接回収する。

DACCSの課題

 大気中のCO2濃度は工場や発電所の排ガス中の濃度の約1/300と低いため、DACによる回収コストは300~600ドル/トンと排ガスからの回収コストの5~10倍とされる。一方、温暖化ガス排出量の取引価格(先物)は近年上昇しているが、EUではCO2換算で80ユーロ/トン(約70ドル/トン)前後である。

 現時点で欧米ではDAC設備の普及に関して補助金などによる支援を行っているが、持続可能なDAC設備とするための最大の課題は、高効率化低コスト化である。現在は、米国で100万トン/年の大規模DACプラントの建設が始まっており、量産効果に期待が集まっている。

 2050年のCO2削減ポテンシャルはDACCSが29億トン/年と予測されている。ただし、CO2削減ポテンシャルは、分離したCO2の貯留地を確保できるか否かで大きく左右される。そのため、地下貯留以外の様々なCO2固定化方法の開発が、低コスト化開発と並行して進められている。 

 DACで回収したCO2の利用法については、高付加価値な化学品や燃料、鉱物が製造できれば、DACCSプラントとしての普及が進む可能性がある。

 2021年設立されたカリフォルニア工科大学のスピンオフ企業キャプチュラは、地球表面の70%を占める海洋を活用する直接海洋回収技術(DOC:Direct Ocean Capture)を使い、大気中のCO2を低コストで除去する施設の建設を目指している。
 海水は大気からCO2を吸収するため、ろ過した海水をプラント内に引き込み、再生可能エネルギーを使って海水を電気分解してCO2を除去して貯留する。

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