グリーンスチールの現状(Ⅱ)

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 欧州や中国の製鉄メーカーも「グリーンスチール化」をめざし、①「高炉法」をベースとする水素還元製鉄+CCUS②水素による直接還元製鉄③「電炉法」への転換への取り組みを進めている。
 一方、安価で豊富な水素の供給が滞る現状から、2024年にはArcelor Mittalが水素直接還元を延期し、「電炉」のみを先行すると発表するなど、動向から目を離せない。

海外製鉄メーカーの動向

欧州メーカー

 欧州各国の製鉄メーカーでは、高品位鉄鉱石を原料とした②「直接還元製鉄」+③「電炉」による製鉄プロセスが主流で、多くが2030年までの稼働を予定し、操業開始時は天然ガスを使用し、水素インフラが整備されたタイミングで水素への転換をめざしている。
 しかし、最近になり、水素のコスト・供給量の懸念等から、実施内容の見直し・延期等が行われている。

 スウェーデンでは、SSABが「直接水素還元製鉄」の開発に向け2020年から実証プラントでの実証開始、高品位鉄鉱石からグリーン水素を使い鉄を取り出し、電炉に投入して粗鋼を製造する。2021年にはボルボ・カーズと共同で実証プラントで生産したグリーンスチールを用いた自動車製造に着手している。

■2024年4月、SSABは、スウェーデン北東部のルーレオ製鉄所で、高炉から化石燃料を使用しないミニミル(小規模電炉)への設備転換を行う投資を決定。2023年に発表した南東部オクセレスンド製鉄所の設備転換によるCO2排出量3%の削減に加えて合計7%削減できる。
 原材料は北部イェリバーレの実証プラントから供給される水素還元製鉄技術「ハイブリット(HYBRIT)」で製鉄した海綿鉄とリサイクルスクラップを使用。電気アーク炉(EAF)2基で生産能力は250万トン/年、特殊製品や自動車産業向けの特注製品を製造。稼働開始を2028年末、本格稼働をその1年後である。

 ルクセンブルクのArcelor Mittal(アルセロール・ミタル)は、2022年2月にフランスのフォス・シュル・メール工場に「電炉」を建設、ダンケルク工場で「水素還元製鉄」プラント(250万トン/年)を建設し、「電炉」も併設する。いずれも2027年の操業開始を予定し、将来的にCCUS設備の導入も計画している。

■2024年11月、スペインのセスタオ鋼板工場を初の“フルスケール炭素排出ゼロ製鉄所”と位置づけ、2基の電気炉により160万トン/年への生産拡大を計画し、2026年の生産開始をめざしている。すなわち、「水素直接還元製鉄」を延期し、「電炉」のみの先行を公表した。
■2025年6月、欧州アルセロール・ミタルはドイツ北部のブレーメン州と東部のアイゼンヒュッテンシュタットの高炉で計画していた水素製鉄設備の導入中止を決めた。
 ドイツ連邦政府やブレーメン州から13億ユーロ(約2200億円)の補助金を得る予定だったが、グリーン水素の供給計画の遅れなどから「財政支援があっても事業化は困難」と判断した。

 ドイツのThyssenKrupp(ティッセン・クルップ)は、「直接還元製鉄」と「電炉」の建設を公表した。2026年末に天然ガスによる操業を開始し、2027年以降の100%水素直接還元をめざす。西部デュイスブルクの高炉で新プラントの建設を始めたが、稼働開始時期を当初の2026年から2027年に遅らせる。

中国メーカー

 再生可能エネルギー電力とグリーン水素に関しては優位にあるとし、多数の直接水素還元プロジェクト(30万~230万トン/年規模)を公表している。ただし、操業開始時の還元ガスはコークス炉ガス(COG)や他副生ガスが主となり、将来構想としてグリーン水素を想定している。

 宝武鋼鉄集団では2023年から①高炉法をベースに所内水素等を活用した「水素還元製鉄」と、2024年1月から②水素による「直接還元製鉄」(100万トン/年)について大規模試験を実施している。また、2024年4月から還元鉄溶解用の③「電気炉」(180万トン/年)の建設を開始し、2025年末の完成をめざしている。

米国の鉄鋼関連の動き

 2024年4月、米国エネルギー省(DOE)は、エネルギー集約型産業の脱炭素化や温室効果ガス(GHG)排出削減を目的に最大60億ドルを拠出する。15億840万ドルが拠出される鉄鋼関連の主なプロジェクトを示す。

■鉄鋼スラブ電気誘導加熱炉アップグレードプロジェクト(ペンシルベニア州:連邦拠出7,500万ドル)
 EVモーターなどに使用される高シリコン電磁鋼板を製造する生産設備を電化し、エネルギー損失を最小限に抑える。再加熱炉に関連するGHGの直接排出量を100%削減する。
■水素燃料によるゼロエミッション製鉄プロジェクト(アイオワ州:連邦拠出5億ドル)
 水素による直接還元鉄(DRI)製造技術を有する世界初の商業規模の製鉄所を建設し、洋上風力タービンなどにも適した鋼種も製造。水素活用により、製造工程で81%の炭素排出量削減を見込む。
■水素対応DRIプラントおよび電炉設置プロジェクト(オハイオ州:連邦拠出5億ドル)
 2基の電炉や水素にも対応したDRIプラントの設置により、自動車向け圧延鋼板などの製造において、年間100万トンのGHG排出量の削減につなげる。
■低排出、冷間成型鉄鉱石ブリケット生産プロジェクト(メキシコ湾岸:連邦拠出2億8,290万ドル)
 従来の鉄鉱石ペレット製造法よりも低排出で加工できる技術を実装し、CO2排出量を60%削減する。       

 米国USスチールは、2021年に買収したスタートアップ「Big River Steel(BRS)」が「電炉」で生産するグリーン鉄「verdeX」を、2023年にGeneral Motors(GM)へ供給すると発表。最大90%スクラップ鉄を活用し、従来の1/4のCO2排出量で、同等の高張力鋼を生産可能としている。

■2025年6月、日本製鉄は、約141億ドル(約2兆円)の買収資金の支払いを終え、USスチールの普通株を100%取得し、完全子会社化した。USスチールはニューヨーク証券取引所を上場廃止となる。
 USスチールは、Big River Steelの「電炉」によりグリーン鉄の生産に一歩踏み出している。しかし、依然として高炉への依存度が高く、脱炭素化への取り組みが遅れている。脱炭素化でリードする日本製鉄の傘下に入り、保有する鉄鉱石鉱山の活用で、環境負荷の低い生産体制を構築することが期待される。

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