間違った小型モジュール炉への期待(Ⅱ)

原子力

 世界的にみて、SMRの開発で先行しているのは米国ニュースケール・パワーの「VOYGR」GEベルノバ日立ニュークリアエナジーの「BWRX-300」である。一応、国内原発メーカーである三菱重工業も「多目的軽水小型炉」の開発を進めている。 
 ここでは、米国ニュースケール・パワーの「VOYGR」の開発現状について観てみる。

米国ニュースケール・パワーの「VOYGR」

「VOYGR」の開発状況

 NuScale Power(ニュースケール・パワー)が開発する「NuScale Power Module (NPM)」は、PWR型の小型軽水炉(熱出力:20万kW、電気出力:7.7万kW、炉心出口温度:316℃)である。

 1モジュールは圧力容器・蒸気発生器・加圧器・格納容器を含む一体型パッケージで、最大12基のモジュールが大きな地下プールの中に設置される。大型の冷却水ポンプや大口径配管が不要で、それぞれ独立したタービン発電機と復水器に接続される。
 冷却材喪失事故(LOCA)対策として、原子炉圧力容器内に蒸気発生器を内蔵してリスクを低減している。

 最大12基のモジュールが設置された「VOYGR-12」は総出力:92.4万kWで、6基が設置された「VOYGR-6」は46.2万kW、4基が設置された「VOYGR-4」は30.8万kWでラインアップしている。

図1 ニュースケール・パワー・モジュール「VOYGR-6」
出典:NuScale Power

 2020年9月、米国原子力規制委員会(NRC)はモジュール1基の出力:5万kWのNPMについて、SMRとして初の「標準設計承認(SDA)」を発給、2023年1月、設計認証(DC:Design Certification)を発給した。その後、設計改良が行われ、2025年5月にモジュール1基の出力:7.7万kWのNPMもSDAを取得した。

 DOEによる支援を受け、西部6州の電気事業者48社で構成されるユタ州公営共同事業体(UAMPS)が、アイダホ国立研究所敷地内にNPM初号機「VOYGR-6」を建設する計画で、最初のモジュールは2029年の運転開始をめざした。2021年4月に日揮HD、2021年5月に IHI が相次ぎ出資を表明した。

 2022年1月、英国シアウォーター・エナジーと、SMRと風力発電を組み合わせたハイブリッドエネルギー・プロジェクトをウェールズで進める協力覚書を締結した。また、同年2月、KGHMポーランド採掘会社とは、2029年までにNPMをポーランド国内で建設するため先行作業契約を締結した。

 2022年4月、NPM初号機建設に向け、韓国の斗山エナビリティ(=Doosan Enerbility、旧斗山重工業)と、原子炉圧力容器の鍛造材生産など主要機器の製造を開始する契約を締結する。

 2022年10月、カナダのプロディジー・クリーン・エナジーは、ニュースケールと共同開発したNPMを1~12基搭載する可搬型発電所の概念設計を発表。設置場所まで曳航し、60年後の運転終了時に撤去する。

 2022年12月、SMRを活用したクリーン水素製造を共同開発・実証するため、Shell Global Solutions、アイダホ国立研究所(INL)、ユタ州公営共同事業体、Fuel Cell Energy他と共同研究協定を締結した。
 固体酸化物形電解セル(SOEC)で水素を製造・貯蔵し、逆反応である固体酸化物形燃料電池(SOFC)で発電することで、出力変動する再生可能エネルギーの変動対応をめざす。

 2023年9月、2021年に日揮HDとIHIがニュースケールへ出資するために設立した特別目的会社JNIを通じて、中部電力がニュースケールへの出資を表明する。

 2023年10月、米国スタンダード・パワーがオハイオ州とペンシルベ ニア州に立地するデータセンターへの電力源としてNPMの採用を発表した。

 2023年11月、アイダホ国立研究所(INL)で2029年の稼働を計画していた初号機「VOYGR-6」の建設中止を発表した。2023年1月、発電価格が8.9セント(約13円)/kWhと当初計画より約5割高くなる見通しを発表、さらにインフレや金利高で建造費なども高騰し、経済性が見込めないとの理由である。

図2 ニュースケール・パワーのSMR完成予想図
出典:
NuScale Power

 その他、米国Xcelエナジーやデイリーランド電力共同組合が、「VOYGR」導入を検討している。米国外では、カナダ、チェコ、エストニア、ポーランド、ルーマニアなどの企業が「VOYGR」導入を検討しており、それぞれが実行可能性調査などの了解覚書をニュースケールと締結している。

 2025年5月、IHIは、SMRの原子炉建屋の壁として使われる鋼製モジュールのモックアップをIHI横浜工場で製造した。ルーマニアのRoPowerがDoicestiに建設するSMRプロジェクト「FEED Phase 2」の一環で、現地建設業務を担当する韓国Samsung C&Tから製作を受注した。

 2025年9月、米国テネシー峡谷開発公社(TVA)とENTRA1エナジー(ENTRA1)は、TVAが電力供給する米国南東部7州で、NPMを搭載した6プラント、最大で電気出力:計600万kWの開発で協力合意書を締結した。ENTRA1が電力インフラを開発・所有し、将来的にはTVAに電力を販売する。
 両社はこの計画を米政権のエネルギー支配戦略とエネルギー安全保障の確保の重点方針にかなうと位置づけ、約450万世帯または60の新データセンターに相当する電力供給を計画し、ハイパースケールデータセンター・人工知能(AI)・半導体製造などの膨大な電力需要に応える。

 2026年2月、ルーマニア国営のニュークリア・エレクトリカルは、同社のドイチェシュティでの「VOYGR-6」(合計出力:462MW)の建設への最終投資を決定。2030年代初頭の運転開始をめざす。

「VOYGR」の安全対策

 1モジュールは原子炉と蒸気発生器を納めた円筒形の格納容器で、外形寸法:76フィート(約23.2m)×15(約4.6m)、重量:約700トンであり、格納容器は水で満たされた原子炉プール内に設置される。
 設計温度:316℃、設計圧力:83bar、熱出力:250MW、電気出力:88MW、熱効率:30%以上、運転寿命:60年としており、炉型:PWR、燃料:標準軽水炉(LWR)燃料(17×17構成)としている。

 格納容器下部に設置された原子炉の炉心で、冷却水が加熱され水蒸気が原子炉内を上昇する。得られた水蒸気を使い熱交換器を介して2次系で得られる水蒸気でタービンを回転させて発電する。

 事故時の原子炉冷却は、電源不要、外部冷却水不要、運転操作不要で行う方式。原子炉上部のベント弁から噴き出した水蒸気が周囲の原子炉プールで冷却されて水に戻り、格納容器下部の原子炉再循環弁を通して自然循環で炉心を冷却する。崩壊熱の減少により、30日以降は空気冷却とする。 

図3 「VOYGR」の技術スペック  出典:NuScale Power

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