大西洋で沈没した豪華客船「タイタニック」の残骸の観光用潜水艇「タイタン」が、2023年6月18日に行方不明となり、船体の一部とみられる破片が見つかり、乗っていた5人は死亡した。
潜水艇「タイタン」の沈没事故に関して、多くの批判や解説が行われている。①何故、潜水艇で実績のある真球型耐圧容器を採用しなかったのか?②何故、耐圧容器で使用実績のないCFRPを採用したのか?本当にそうであれば、潜水艇には未来(進歩)はない。
潜水艇「タイタン」の沈没事故
2023年6月19日、米沿岸警備隊が、大西洋で沈没した豪華客船「タイタニック」の残骸の観光用潜水艇「タイタン」が行方不明になり、政府機関、米国とカナダの海軍、民間企業による大規模な捜索と救助活動が行われていると発表した。
ツアー会社オーシャンゲートのタイタンには5人が乗船し、水深4000mまで潜水可能で、96時間分の緊急用酸素を積んでいる。タイタニックの残骸は、カナダ・ニューファンドランド島のセントジョンズから南に約700kmの海底に沈んでおり、潜水を始めてから約1時間45分後に連絡が取れなくなった。
ツアー旅行は8日間の日程で、セントジョンズから出航し、水深3800mのタイタニック沈没現場への潜水には、潜航と上昇を含め1回あたり約8時間を要する。料金は25万ドル(約3500万円)。海中ではGPSも無線も機能しないため、タイタンと通信するのは現在は無理だという。

2023年6月22日、米沿岸警備隊が、18日に行方不明となった潜水艇「タイタン」について、船体の一部とみられる破片が見つかり、乗っていた5人は死亡したとみられると発表した。
タイタニックの船首から約490m離れた海底で、遠隔操作の水中探査機(ROV)により船尾部分など複数の破片が発見された。乗船していた5人は全員、潜水艇内部の破滅的な破壊によって死亡したとみられるとし、5人の遺体が収容される見通しについては答えられないと説明した。

出典:NTSBの資料を基に日経クロステックが編集
潜水艇「タイタン」の構造
「タイタン」は、全長:6.71m、高さ:2.53m、重量:10.432トンの5人乗りの潜水艇である。乗員区画である耐圧容器に、電動推進機構(上下左右4基のスラスター、最高速度:5.6km/h)と、着陸用フレーム、テールコーンが取り付けられている。
乗員区画は、全長:2.53m、直径:1.40m、肉厚:127mmの円筒形状の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と、両端の半径:0.70m、厚さ:83mmのチタン合金製ドームキャップで構成される。CFRP製円筒部の両端にチタン合金製のフランジを接着し、これにエンドキャップをボルト締めとする構造である。
チタン合金製ドームキャップは乗員が乗り込んだ後にボルト締めで閉じられ、外部からしか開けられない。進行方向のドームキャップには、直径:380mmのアクリル樹脂製の観察窓がはめ込まれている。

出典:NTSBの資料を基に日経クロステックが編集
一方、「タイタン」には音響(AE)センサーとひずみゲージを使った船体強度の監視モニタリング(RTM)システムが備えられていた。また、緊急時に船体を浮上させるためのバラスト、気球、スラスターなど7種類のバックアップシステムが設置されていた。
オーシャンゲートは、CFRP製の耐圧容器の製造工程に5層に分けて高密度に積層接着する「co-bonding(コボンディング)」方式を採用した。
●まず、テープ状のプリプレグを円筒形マンドレルに巻き付け、133枚重ねて25.4mm厚さの未硬化積層体(プリプレグ)を造り、オートクレーブによる加圧・加熱で固化させテCFRP複合層を成形する。
●次に、この円筒形をしたCFRP複合層の外表面に接着剤を塗り、その上に未硬化のプリプレグを貼り、オートクレーブで再び加圧・加熱して硬化させる。
●CFRP層を細かく分けて接着層とプリプレグを重ね、オートクレーブで硬化させる作業を繰り返し、最終的に127mm厚さの5層からなるCFRP製円筒に仕上げる。
「タイタン」沈没事故の原因
潜水艇「タイタン」の沈没事故に関する、アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)の調査報告書が2025年10月に公開された。この事故原因として①タイタンに設計上の問題があったこと、②船体の適切な検査を実施していなかったことをあげている。(東洋経済オンライン2025年11月)
すなわち、①複数の欠陥を含むCFRPにより耐圧容器が製造され、疲労損傷により必要な強度と耐久性の要件を満たさなくなった点、②CFRPの疲労損傷を念頭に置いた適切な検査を実施しておらず、その真の耐久性を把握していなかった点である。
オーシャンゲートによる「タイタン」の事故発生状況:
■2018~2019年、合計48回の無人潜水テスト(最大想定水深への潜航も含む)で、42回目以降に複数回でき裂発生音(層間はく離)が確認され、48回目には微小き裂が船体表面に検出された。
■2021年、タイタン胴体部分のCFRP製の耐圧容器を新しく作り直し、チタン合金製ドームキャップは既存のものを再利用。4200mまでの潜水に耐えられることを、複数回の試験で確認した。
■2021~2023年、タイタニック号の沈没現場での調査潜水を13回実施し、いずれも成功した。
ただし、2022年の通算80回目の調査潜水では、浮上中のタイタンから「大きな異常音」が発生した。
■2023年6月、通算88回目の潜水で「タイタン」は圧壊事故を生じた。
事故後のNTSBによる調査では、通算80回目の調査潜水での異常音は、RTMシステムの閾値を完全に超え、破裂するような音響データと、一部のひずみセンサーの急上昇を記録していた。さらに81回目以降の音響データと一部のひずみセンサーのデータには多くの変化が認められた。
加えて、事故後にNTSBが引き揚げたタイタンの調査では、厚さ:25.4mm(1インチ)の複合層を5層重ねて約127mm(5インチ)の厚さとしたCFRPのうち、第1層と第2層および第3層と第4層の間に剥離が認められ、この剥離で生じた空隙にはズレの繰り返しにより生じた摩耗粉が堆積していた。

以上からNTSBは、CFRP製の耐圧容器が通算80回目の潜水終了時に浮上した際、大きな層間剥離が発生して顕著な強度低下を生じた可能性が高いとしている。
その後、繰返し疲労によりCFRP製の耐圧容器は層間はく離が拡大し、通算88回目の潜水で強度限界に達して局所座屈を起こして瞬間的に圧壊事故に至ったと考えられている。
潜水艇「タイタン」の圧壊事故に関して、多くの批判や解説が行われている。①何故、潜水艇で実績のある真球型耐圧容器を採用しなかったのか?②何故、耐圧容器で使用実績のないCFRPを採用したのか?本当にそうであれば、潜水艇には未来(進歩)はない。
従来からCFRPの層間はく離問題は良く知られており、対策として三次元網構造CFRPが航空機分野では一部実用化されている。重要なのはCFRPの疲労挙動が十分に解明されていないことにある。二度と不幸な事故を起こさないため、CFRPの疲労寿命予測法の構築が必須であろう。

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