燃料電池の開発を始めてから20年を経て、2002年に本田技研工業とトヨタ自動車が相次いで「燃料電池車(FCV)」を販売して世界的な脚光を浴びた。しかし、FCVは、車両価格が高く、燃料供給のための水素ステーションが少ないことが原因とされ、普及は低迷している。
今回、「EVは軽量物を対象とした短距離輸送」に向き、「FCVは重量物を対象とした長距離輸送」に適すると考える相互補完的なコンセプトに基づいて、FCトラックやFCバスの開発を加速する動きが始まっている。
「燃料電池」の未来予測!
FCVは重量物を対象とした長距離輸送に!
2023年末以降、世界的にEV需要が低迷している。その理由としては、「高価格」、「購入補助金の減少」、「充電インフラ不足」が挙げられている。一方で、HVやPHVが再評価され需要が伸長しており、欧米の大手自動車メーカーは「EVよりもHVやPHVを優先する戦略」への転換を始めている。
ところで、EVで出遅れた日本の自動車メーカーは、得意とするHVやPHVで一息継ぎながら、次なる戦略の検討を始めている。遅れているEVのキャッチアップは当然であるが、しばらく音沙汰がなかった燃料電池車(FCV)に関しても動きが出始めている。
すなわち、「EVは軽量物を対象とした短距離輸送」に向き、「FCVは重量物を対象とした長距離輸送」に適するという相互補完的な概念に基づいた未来予測が行われている。
■2024年7月、経済産業省はGX推進に不可欠な水電解装置・燃料電池などと、その関連部素材や製造設備について、世界に先駆けて国内製造サプライチェーン構築をめざし、2028年度までの総予算額4212億円の「GXサプライチェーン構築支援」の補助事業を公表した。
第一回公募(水電解装置・燃料電池)は、事業期間(2024年6月28日~2029年3月31日)とし、本田技研工業(燃料電池システム)、トヨタ自動車(燃料電池スタック、モジュール、水電解スタック)を始めとして、計8社のプロジェクトが採択された。
■2025年4月、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスが経営統合の最終調整に入り、親会社であるトヨタ自動車とダイムラートラックの協業が本格始動すると報じられた。4社の枠組みにより、商用車事業の支援に加えて水素関連事業への協業が加速される。
ダイムラートラックは、液体水素で走るFCトラックの開発も進めている。また、川崎重工業と欧州での液体水素の供給網(サプライチェーン)構築に向けた調査を進める覚書を締結している。中東を中心に欧州域外で作った水素を欧州に運んで利用する計画である。
少し過去を振り返ってみよう
1970年代に起きた2度の石油ショックを経て、1981年に開始された通商産業省プロジェクト「ムーンライト計画」(1993年以降は「ニューサンシャイン計画」)において、水力・火力・原子力に次ぐ第4の発電方式と位置付けられた「燃料電池の開発」が推進された。
開発の開始から20年を経て、2002年に本田技研工業とトヨタ自動車が相次いで「燃料電池車(FCV)」を販売し、世界的な脚光を浴びた。しかし、圧縮水素タンクと固体高分子形燃料電池(PEFC)を搭載したFCVは、車両価格が高く、燃料供給のための水素ステーションが少ないことが原因とされ、普及は低迷している。
国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年のFCV普及台数は前年比40%増加したが、世界で累積7万2100台に留まる。国別シェアは首位が韓国で41%で、2位米国(21%)、3位中国(19%)、残念ながら商品化で先行したは日本(11%)は4位で、ドイツ(4%)が5位である。
一方、2009年に国内販売された家庭用燃料電池「エネファーム」は、2024 年1月に累計販売台数が50万台を突破した。しかし、国内の一般世帯総数は4885万世帯(2020年度)で割ると、普及率は1%に留まる。水素を燃料とするFCVと異なり、「エネファーム」は都市ガスを燃料とするため高効率であるが、CO2を排出する。
「FCV」にしても、「エネファーム」にしても、膨大な開発費を投入したにも関わらず、政府の普及目標にはるかに届かず、普及目標の下方修正が継続して行われている。「FCV」の競争相手は「EV」で、「エネファーム」の競争相手は「エコキュート」である。いずれも、経済性に優れた方が他を圧倒している。
今回の「EVは軽量物を対象とした短距離輸送」に向き、「FCVは重量物を対象とした長距離輸送」に適するとする相互補完的なコンセプトは、FCV推進派が考えたものである。安価な高性能電池が開発されれば、「EVは重量物を対象とした長距離輸送」も可能となる。二の舞を演じないよう、注意が必要である。
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